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写真●日本放送協会 NHKオンデマンド室 所洋一副部長
写真●日本放送協会 NHKオンデマンド室 所洋一副部長
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 日本放送協会(NHK)は2008年12月1日,一部番組をインターネット経由でパソコンやテレビで有料配信する「NHKオンデマンド」を開始した。放送後1週間前までにさかのぼって番組を視聴できる「見逃し番組」のほか,古い番組を視聴できる「特選ライブラリー」と複数のメニューを用意している。サービス開始後の利用状況や今後の展望はどうか。NHKオンデマンド室の所洋一副部長に聞いた。

(聞き手は松元 英樹=日経コミュニケーション

NHKオンデマンドの利用状況は。

 コンテンツの内容では,やはり大河ドラマは人気だが,NHKスペシャルなどの「見逃し番組」が視聴されるケースもある。週末に放送した番組が週明けに口コミで話題になると,NHKオンデマンドで視聴されているようだ。先日の例では,放送が夜間だったオバマ大統領の就任式も利用が多かった。「見逃し番組の視聴」は想定していた通りの利用方法だ。

 プラットフォーム別では,パソコンからの利用が多い。パソコンの世帯普及率が70%を超えていることもあり,対象となるユーザー層が厚いからだろう。2月中旬の時点で,パソコン経由の視聴会員は3万人。テレビは登録制ではないため,会員数は不明だ。

 ただ,NHKがこのようなサービスを運営しているということに気づいてもらえていない傾向がある。NHKの視聴者には,パソコンやクレジットカードの使い方に慣れていない高齢者も多い。ユーザーの認知を高めるために,土曜日・日曜日の番組を525円で1週間視聴できる期間限定の「見逃し体験パック」を用意するといった取り組みも行っている。

NHKオンデマンドの配信システムはどう構築したのか。

 これまでNHKが放送システムを整備する際には,厳格に映像の管理ができるよう,内部で独自仕様のものを作り上げてきた。ただ,NHKオンデマンドの動画配信は放送法の定めによって,NHK本体とは会計分離する必要がある。コスト削減のために,配信システムを一から作り上げるのではなく,外部の通信事業者と組むことにした。

 コンテンツの製作と管理の責任はNHKが持つ。ユーザーに動画を届ける配信インフラは外部に委託する。「提供部門」と「配信部門」という2つの役割を明確に分けたのだ。

 通信事業者は一般公募して,サービスの提供に必要なスペックや機能を伝えた。最終的には提案を受けた内容やコスト面を総合的に判断してNTTコミュニケーションズを選んだ。確かに外部のサービスを利用するほうが,コスト面のメリットは大きい。システムを一から作り上げるとなれば,各サーバーのストレージ容量から網をIXとどうつなげるかといった面まで管理しなければいけない。ある意味で,NHK側から見ると,配信部門はブラックボックスになっている。

ユーザーの回線の帯域が不足するような恐れはないのか。

 現状では,パソコン向けに1.5Mビット/秒の動画を配信している。50%くらいのマージンを持たせて,ユーザーには3Mビット/秒を推奨としている。ひかりTVなど家庭用のテレビ向けサービスに向けては,ハイビジョン映像も送信している。フレッツ網やNGNなど,いわゆる閉域網で安定的にデータが届けられるためか,映像が見られないというクレームを受けたことはない。

配信のためにP2Pの仕組みを導入する考えはなかったのか。

 コンサート映像を一気に送信するような場合は,端末のキャッシュからデータを取得できるP2Pが向いているが,NHKオンデマンドの場合は,さまざまな選択肢からユーザーが好みの映像を見る使い方を想定している。現在の利用形態では,ストリーミング配信が適している。期限付きで映像データをダウンロードできるといった仕組みも考えられるが,導入するとなると法令などの整備が必要となるため,難しい。

携帯電話などへの配信をする可能性はあるか。

 現状の携帯電話向けネットワークは,長時間のストリーミングを配信するには帯域が不十分だろう。今後,第3.9世代携帯電話(3.9G)のLTEやWiMAXなどのインフラがどう変化していくのかを注目していく。また,携帯電話で配信するとなれば,改めて出演者など権利者への配慮が必要となる可能性もある。慎重に検討する。

当初は,出演者など権利者からネット配信の許諾を得るための交渉が難航すると言われていた。

 例えば,2008年12月に終了した大河ドラマでは,NHKオンデマンドの「見逃し番組」では配信できなかった。これは出演者への権利関連の手続きができなかったため。その次の大河ドラマでは,初めからNHKオンデマンドでの配信を含んだ形で交渉をしているため,問題なく配信できている。

 現状の「見逃し番組」では1週間の番組を視聴できるが,1週間が経過すると視聴できなくなる。出演者との契約によっては「特選ライブラリー」で配信できるのは,放送から数年後になってしまう場合もある。いずれはこの間を埋めるサービスを展開していきたいが,改めて権利者とのさまざまな交渉が必要となるだろう。まずは,現状のサービスを開始できたことは大きな一歩だ。ユーザーの求めるサービスに向けて,改善していきたい。