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「スパコンの活用がコスト削減につながる」イング・リム・ゴウ(Eng Lim Goh)氏 米SGI CTO(最高技術責任者) 上級副社長

米国発の金融危機が世界を揺るがすなか、IT市場も冷え込み始めている。米SGIのテクノロジを統括するCTO(最高技術責任者)のゴウ氏は、「今こそ産業界がスーパコンピュータ(HPC)を導入し活用する時ではないか」と主張する。不況に打ち克つために、HPCが果たせる役割について、ゴウ氏に聞いた。

(聞き手は、市嶋 洋平=日経コンピュータ)


金融危機が産業界に大きな影を落としています。こうした環境下では、HPCへの大きな投資は期待できないのではありませんか。

 必ずしもそうとは限りません。まず当社売上高の6割は政府系によるものです。彼らは景気が悪くなると投資を増やす傾向があります。

 一方、産業分野では、ある程度の落ち込みが予想されます。しかし、むしろこういう時にこそ、産業分野はHPCを積極的に活用し、コスト削減に取り組むべきでしょう。HPCの性能向上と低価格化が進んだことで、既存ユーザーはHPCの利用比率を上げています。こうした大きな流れに変わりはないでしょう。

 産業界におけるコスト削減効果が期待できる工程の一つが、製品の設計です。現在のHPCは、大型で複雑な製品でも、設計作業はもとより、その設計がきちんとした効果を上げるかどうかの実証までの大部分をこなせるようになっています。実際に部品を組み上げなくても効果が確認できるため、コストと開発期間を大幅に削減できるわけです。

実物での実験回数を減らす

 航空機用エンジンの開発を例に取りましょう。そこで今、大きな課題になっているのは、鳥を吸い込んだ際のトラブルをいかに回避するのかです。鳥が吸い込まれるとエンジンの内部が破損してしまうことがあり、大きな事故にもつながりかねません。だからといって、実際に何度も鳥をエンジンに投げ込んで破損状況を確認していては、コストも時間も無駄にかかってしまいます。

 そこで、HPC上でシミュレーションしながら設計改良を重ねることで、実際に鳥を投げ込むテストは最後の1回だけ実施すれば済むようになっているのです。航空機用エンジン大手の米ゼネラル・エレクトリック(GE)と英ロールスロイスのいずれもが、当社製品を利用しています。

HPCが提供する巨大なコンピューティングパワーについては、米グーグルや米アマゾン・ドットコムなどが、”クラウドコンピューティング”として安価に提供し始めました。HPCと競合し、HPCの導入余地は減少していくのではありませんか。

 クラウドとHPCは競合関係にはありません。両方を活用して初めて効果的なサービスが構築できると考えています。グーグルやアマゾンなどのサービスは、フロントエンドに多くの小型サーバーを配置し、分散でパラレル処理を実行しています。しかし、バックエンドは別です。HPCのように少数の大きなシステムが必要な場合があるのです。

HPCはクラウドのバックエンドに

イング・リム・ゴウ氏

 具体的には、ユーザーがサービスをどのように利用しているのかを分析するようなケースがあります。例えば米イーベイは、フロントエンドで収集した情報をバックエンドに置いた当社のスパコンに集約して分析しています。日々のオペレーションを改善するためです。これはトランザクション処理ではなく、ビジネスプロセスを改善するための処理です。両者は用途が異なっているのです。

 HPCは、高度な三次元処理など、アプリケーションの能力を引き出す用途に向いています。先の北京オリンピックにおける競泳種目では、多くのメダル獲得に貢献した英スピード社の水着も、当社製HPCの活用例です。3Dモデルを利用したシミュレーションによって、選手が身につけた際に水との抵抗が最も少なくなるように設計されています。

HPCのシミュレーション能力をもっても、今回の金融危機を事前に予測し、効果的な回避策を示すことは難しかったのでしょうか。

 興味深い質問ですね(笑)。

 確かに、HPCは極めて能力が高いツールであり、ユーザーが立てたアイデアが正しいかどうかをシミュレーションによって証明できます。金融業のユーザーは、その機能を利用し、お金を稼いできたわけですね。しかし、間違った方向を見て進んでいたケースが、今回の金融危機につながった。アイデアの方向までは、HPCではチェックできません。

 ただ政府系のユーザーがHPCを使って、国レベル、例えばG8のすべての国の経済状況をモニタリングしていたら、今回の金融危機を避け、異なる結果を導き出せたかもしれません。