「PSPが“バーチャルPS3”になる」「現実の世界の出来事をオンライン・ゲームに反映させる」,将来の「Cellサーバー構想」――。ソニー・コンピュータエンタテインメントでPS3やPSPの開発を手がける川西泉氏はPS3の発売に向け,さまざまな新しいコンピュータ・エンターテインメント像を提示する。その中からは,PS3と現行PSPの連携による次なるエンターテインメントの姿がおぼろげながらも見えてくる。
7月に「プレイステーション・ポータブル」(PSP)の出荷台数がワールドワイドで2000万台を超えました。この数字をどう評価しますか。
ゲームのプラットフォームとしては順調だと思います。この夏も結構売れてます。ゲームのタイトルも割とそろってきたので,いい感じになってきたなと。
「プレイステーション2」(PS2)の出荷台数が1億623万台(注1)で,PS2のゲームの出荷本数が10億8000万本(注2)。対して,PSPは本体が2000万台で,ゲームの出荷本数は5640万本です。PSPが出たばかりということを差し引いても,ゲームの出荷本数はやや少ないように思えます。
PS2はプラットフォームとして何年も続いてますからね。PS2も発売したときはゲームのタイトルがそろわなくて大変な思いをしたんですけど,それに比べれば売れていると思いますよ。

(注1) 1億623万台=2006年6月30日時点。
(注2) 10億8000万本=2006年6月30日時点。
映像はネット配信が時流に
3月のイベント「プレイステーションミーティング」(注3)では,PSPで初代「プレイステーション」(PS1)のゲームを動かせるようにすると発表しました。
はい。プレイステーションミーティングの直前に,PSP上でPS1のエミュレーション(注4)が技術的にいけそうだと分かりました。エミュレーションの技術はオリジナルのものです。今,内部的に検証していますが,結構ちゃんと動いています。
もっとも,PS1のすべてのゲームをエミュレーションするのは難しいと思っています。PS1はアナログ・スティックが左右に付いていたり,コントローラのボタンの数も多いです。一方,PSPはアナログ・スティックが片方だけですし,ボタンの数も違います。エミュレーションはパワー的には問題ありませんが,こういうユーザー・インタフェースの制約があります。
PS1のゲームをダウンロード販売する計画ですね。プレイステーションミーティングでは「eディストリビューション」(注5)も発表しました。
eディストリビューションの構想はPS2のときに,コンテンツの配信をディスク・メディアからネットワークに移行させたいという形でスタートしました。ただ,当時はADSLも姿がなかったくらいなので,ブロードバンド環境が整っていなかったことから,実現は不可能でした。
今回はもう光ファイバが普及しています。本格的にeディストリビューションを実現できる環境になったと考え,3月の時点で改めて発表しました。
ネットワーク経由で配信するのは「プレイステーション3」(PS3)やPSP,PS1などのゲームです。人気のあるシリーズものは別ですが,最近のゲームはパッケージを見ただけでは中身が分かりにくくなっているので,“お試し版”を配信することも考えています。
PS1のゲームの場合,初代のプレイステーションですから遊びたいゲームはもう皆さんお持ちで,遊び尽くした後かもしれません。でも,Amazonがあらゆる書籍を陳列しているみたいに,全部のゲームを並べてライブラリとしてそろえれば,中には昔のゲームを「やってみたいな」と思うユーザーも結構いるのではないでしょうか。
また,配信するコンテンツはゲームに限定するつもりはなく,映像も含まれるでしょう。UMD(注6)の映画ソフトがどれくらい売れているかは把握できないのですが,世の中はネットで映像を配信する方向に向かっているのは間違いないですね。So-netの「Portable TV」(注7)も順調だと聞いてます。UMDはその端境期にはまってしまっている気がします。
(注3)プレイステーションミーティング=業界・報道関係者向けにソニー・コンピュータエンタテインメントが開催したプレイステーションの説明会。
(注4) エミュレーション=あるハードウエアを別のハードウエア上でソフトウエアによって実現するソフトのこと。ハードウエアのCPUやグラフィックスLSIなどの動作をそのままソフトウエアで処理する。
(注5) eディストリビューション=ソニー・コンピュータエンタテインメントが企画するコンテンツのダウンロード販売の構想。
(注6) UMD=PSPが搭載する直径60mmの光ディスク・ドライブ。容量は1.8Gバイト。
(注7) Portable TV=So-netのPSP向け映像配信サービス。