![[後編]ソフト開発はまだ前哨戦,日本には欧米にはない強さがある](tit_interview.jpg)
米国からiPhoneやAndroidのような波がやってきている。
AndroidやiPhoneの動きが物語っているのは情報自体に価値があることだ。音楽配信や携帯のサービスを提供し,それに対してユーザーがどう反応するかを調べ,それを次につなげるというスパイラルを回そうとしている。
あるEコマースの会社の例を挙げると,この会社では自社サイトの検索サービスで,国産と海外の検索エンジンの二つを採用した。国産の検索エンジンの提供会社は,システムを納入したらそれで終わりだった。
一方で海外の会社は,初期段階ではセットアップ程度の費用しか受け取らず,ソフトウエアの代金は売り上げのうち一定の割合を受け取る形にした。ベータ版のような形で提供し,ユーザーの利用状況を見ながら改良を加えていくアプローチを採った。この形なら,次のビジネスや製品の改良に使える。
どうすれば,そうした方向に持っていけるのか。

まずは基礎固めが必要だ。
ユーザー企業側の知識を増やす必要がある。ユーザーにシステムの開発や管理などに関する知識がなければ丸投げになってしまうからだ。ベンダーと話し合い,「この機能は削ってもいいから,パッケージを使って納期を短くしよう」といった議論ができるようになる必要がある。
そこで,ユーザー企業が身に着けておくべき最低限の知識を学べるように,情報処理推進機構(IPA)では情報処理技術者試験に初級レベルの「ITパスポート試験」を新たに創設し,2009年春から開始する。受験者数は4万6802名となった。現在の「読み・書き・そろばん」として定着させたい。
ソフトウエア開発のエンジニアリング化も必要だ。ソフトウエア開発を「ものづくり」としてとらえ,ソフトウエアのインタフェースの共通化や工程管理,品質管理を施す。米国やドイツでは10年以上前から取り組んでいる。
経済産業省では,遅ればせながら2004年にIPAにソフトウェア・エンジニアリング・センターを作り,ソフトウエアの工学化に取り組んでいる。これまでの2000近くのシステム開発プロジェクトを調べて共通項を洗い出し,3年半をかけて参照できる形にした。
今では,自動車会社から金融系まで広い分野で活用してもらえるようになってきている。ドイツの研究所と共同で見積もり手法を開発するまで,日本のエンジニアリング力が高まってきている。特に高い信頼性が必要な分野で,日本の強みが生かされるように準備を進めている。
欧米の後追いでは,結局後塵を拝するしかないのではないか。
今のインターネットのサービスの世界では,多くの消費者が参加して,サービスの形を決めていくという流れがある。しかし,それだけが唯一の作り方なのだろうか。
日本の強みはハイエンドのユーザーをつかみ,そこから幅広いユーザーに展開していくところにあると思う。例えば,日本のテレビがなぜ世界を席巻できたのかを考えると,これらの機械が放送局に採用されてきたからという事実がある。一番要求が厳しいハイエンドなユーザーをクリアできれば,広げていくのは容易というわけだ。
自動車の歴史を見ると,かつてT型フォードのおかげで,車は一般に広く普及したが,ユーザーに飽きられてしまった。今は,エンジンの音や使い勝手,デザインなどにこだわるようになってきている。インターネットのサービスにおいても,このように変わっていく可能性がある。
確かにエンターティメントやコミュニティ・サービスの分野で日本は劣勢だが,まだ前哨戦だと感じる。日本が勝てる分野はあるのではないか。
2008年10月に経済協力開発機構(OECD)の「ソフトウェア分野におけるイノベーション」プロジェクトのカンファレンスを日本で開催したのだが,非常に興味深かった。日本からパナソニックや日立製作所といったものづくりの会社が,交通・小売りに普及するICカードを筆頭に生活空間に広がるIT技術の信頼性などについて講演したのだ。
海外は米マイクロソフトや米IBM,米オラクルなどいわゆるソフトウエア企業が講演するのが一般的だ。日本は欧米と比べてソフトウエアを社会の基盤と結び付ける傾向が強く,ここに大きなチャンスがある気がする。
八尋 俊英(やひろ・としひで)氏
(聞き手は,松本 敏明=日経コミュニケーション編集長,取材日:2009年2月13日)