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高度IT人材を育てるNTTデータ次期社長が語る「IT大学院構想」 山下 徹 氏 NTTデータ 副社長

「ユーザー企業を含めて日本のITスキルを高める」――。6月22日にNTTデータ社長に就任する山下徹副社長は、文部科学省の支援を受けて4月に開講したIT大学院の狙いを、こう明言する。山下副社長は日本経済団体連合会(経団連)が進めるIT人材育成プロジェクトのリーダーでもある。IT大学院では「コミュニケーション能力など高度IT人材に必要な素養を学んでもらう」という。

(聞き手は井上 英明/玉置 亮太=日経コンピュータ、写真は新関 雅士)


この4月から、6グループの大学院で企業情報システムの企画・設計・構築に関する高度なスキルを備えた人材の育成が始まりました(関連記事)。ここには経団連が昨年5月に発表したIT専門職大学院の候補だった、筑波大学と九州大学もグループのリーダー校として選出されています。

 最初は一部立ち上がりの悪いグループもあったようですが、準備レベルでは、まあまあ合格点と評価しています。2006年からずっと筑波と九州を中心に、4月1日の開校に向けて準備する中で、経団連と大学の意識合わせを相当回数やってきました。

 やはり最初は、お互いの距離が遠かった。最初の経団連の答申にあった「即戦力」という言葉が、大学側に大きな誤解を生んでしまったからです。言葉のイメージから大学が「経済界は実務能力としてプログラムをいっぱい書ける人を要求しているのか」と硬化してしまいました。「うちは職業学校じゃないぞ」とね。

高度IT人材の「素養」を身につけてもらう

 経済界としても、大学院を出てきた人に「プログラムを組めますか」なんてことは聞きたくないですし、そんな意味での即戦力は初めから求めてはいません。基本的な問題解決能力やプログラミング能力は、IT技術者として当然必要なスキルです。しかしこれらは大学の1~2年生で身に着けるべきもの。大学院の専門学科を卒業したなら、最低限、アーキテクトなどを目指すための素養は身に付けてきてほしい――。我々が“即戦力”という言葉にこめた想いはこういうことです。

 高度IT人材として、我々は具体的な人材像を4つ描いています。アーキテクト、プロジェクト・マネジャ(PM)、CIO(最高情報責任者)、そして本当の意味での高級プログラマです。

それらの高度IT人材に必要な素養とは何ですか。

 4つの人材像に共通するものは2つあります。アーキテクチャを知っていることと、チームでのコミュニケーションが取れることです。

 アーキテクチャを知っていることとは、コンピュータや情報システムがどういう原理で動いているかを知っているということです。この原理を知るということがIT人材には一番重要で、原理さえ知れば、あとの技術発展はいくらでもこなせます。反対に、物の動く仕組みや本質が見えないと、最終的には行き詰まるものです。

 例えばOSの原理を調べたり、簡単なOSを作ってみる。これはやってもらうといいと思いますね。当社でも昔は、新入社員に“ミニOS”とでも言えるものを実際に作らせていました。これによってコンピュータの動作原理を知るのです。

 40年前にIT業界に飛び込んだ我々の世代は、コンピュータ技術の発展とともに仕事をしてきました。若いころは、アセンブラや機械語でI/Oの仕組みを作り、どういうふうにコンピュータが動くのかという原理を、身をもって体験してきたわけです。

 今の世代には嫌でも大学の短い期間で、我々が40年間現場で見につけてきた原理を集中的に学習して、身に付けてきてもらいたいし、もらわないといけない。原理を分からずにアプリケーションを開発しても、いつか行き詰ってしまいます。

 アーキテクチャを学ぶカリキュラムとして、IT大学院では、米国の情報工学教育カリキュラムの最新版「CC2005」を採用することにしました。これはとても実用的で、コンピュータの開発と活用、ソフトウエアの設計/開発/保守、情報システム全般の設計/開発/運用などがちゃんと含まれている。特に、これまで日本の大学の情報工学教育に最も足りなかった、「インフォメーション・システム」を、明確に位置付けているんです。

 我々は高度化する情報システム開発を支える人材を育成したいわけです。CC2005をはさんで、大学と産業界で何を教えるべきかをきちんと議論できましたね。コンピュータ・サイエンスも必要ですが、インフォメーション・システムの中身を濃くしてくれ、といった具合に。

 CC2005は副次的な効果もありましたよ。高度IT人材に関して、産業側と大学側が相互理解を進める上で、CC2005が良い触媒になってくれたのです。というのも、それまで我々は、インフォメーション・システムとは何かということを、明確な絵図面を出して説明できていませんでした。コンピュータ・サイエンスとインフォメーション・システムは違うと、ずいぶん説明したつもりでしたが、大学側の方々には、なかなかピンとこなかったのでしょう。それがCC2005としてドキュメント化されたおかげで、急速にお互いの理解が進みました。