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コミュニケーション能力は磨けば伸びる

 高度IT人材に必要なもう1つの素養は、マネジメントに関するスキル。最たるものがコミュニケーション能力です。

 特にPMにはプロジェクトのメンバー同士での問題解決をするための能力、リーダーシップ、それからユーザーから仕様を聞き出す能力が求められる。この基礎になるのがコミュニケーション能力です。

 今のシステム開発は昔以上にユーザーと新しいものを生み出していくことが求められています。IT分野での「ものづくり」は、陶芸のように1人で孤独にするものではありません。必ずチームで問題を解決していく性格のものです。チームがある以上、リーダーが必要です。だからリーダーがリーダーたるためにコミュニケーション能力が求められます。

山下 徹氏

コミュニケーションを大学院で教えるわけですか。

 その通りです。みんな誤解していますが、コミュニケーション能力や表現力は、磨けば磨ける領域がいっぱいあります。もちろん生まれ持った素質もありますが、それが伸びないと誤解している。あいつはああいうタイプだから仕方がないってね。

 私はプロジェクトを何回も経験する中で、人間ってすごく成長すると実感しています。チームでの仕事のやり方やヒューマン・スキルというのは、経験することによって、すごく向上するんですよ。

 残念ながら、今の若い人たちは、ガキ大将がリーダーを張っているチームで過ごす、という経験が少ない。チームワークの訓練を受ける経験が少なかった世代なんですよ、子供のころから。サークル活動も私から見れば、相手を傷つけてもいけないし、自分が傷つけられるのだったら逃げればいい、という世界。一方、仕事は、逃げちゃいけないし、逃げられない。問題解決をするまで逃げられない世界です。サークルが全部悪いわけではないですが、そこに若い人たちの価値観が典型的に表れているように思います。

 ですから、チーム訓練が必要なのです。プロジェクト・ベースト・ラーニングによって、ある開発プロジェクトを題材にして、組織的かつ具体的に責任分担などを経験をさせる必要があると思っています。意図的に人工環境を作って具体的な課題を与えて、期限までにやるんだよとか、役割分担をするんだよ、と。

 ある限られた期間の中では、お互いが役目として言わざるを得ない部分があることを分かってほしいですね。それは相手の人間性を否定しているわけではないということも。

高度IT人材はユーザー企業にこそ必要

高度IT人材の育成はとても重要だと思うのですが、卒業生の進路をどうお考えですか。ITベンダーの採用活動の一環だとすると、取り組みそのものへの関心が高まらず、意義は半減するのでは?

 我々ITベンダーが講師を派遣するなどしてIT大学院をサポートするのは、我々だけが得をしようと思っているからではありません。正直言いまして、ここで採用をしようという即物的な気持ちはありませんよ。

 ITベンダーよりも、むしろユーザー企業の需要に応えるのが目的です。ユーザー企業の方こそ、高度IT人材を求めておられるし、実際に採用しています。企業で採用した人たちのスキルについて、経団連で調査したところ、ユーザー企業が一番スキルの高い人を採用していました。典型では、組み込みソフト分野ではトヨタ自動車とかデンソーに行くとか、システム開発では銀行のシステム部門にいくとか、ですね。

 ただし、ユーザー企業がIT技術者教育で困っているという事実があります。やはりユーザー企業は、自分たちではIT教育を十分には実施しきれない。

 例えば、NTTが電気通信系の人を採用するのは当然です。業務に直結しているわけですから。従って、応募も多い。しかし保険会社がIT人材を採っても、ITそのものの訓練をなかなかできないのではないか。だからこそ、ユーザー企業は、大学に高度IT人材の輩出を求めているわけですよね。

 我々の問題意識は、ユーザー企業も含めて、日本全体のITスキルが上がらないと、日本の産業そのものが持たないというものです。不遜な言い方を承知で申し上げると、ユーザーのITレベルが上がって、ベンダーと共通の言葉で話せるようになればなるほど、ITベンダーにとっては仕様や責任範囲にあいまいさがなくなります。情報システム開発は共同作業ですから。結果として、ユーザー企業は有用なシステムを適正な価格で手に入れられるようになりますし、ベンダーとしても失敗プロジェクトを減らせるわけです。