「GoogleはIT(情報技術)革命をもたらしたのではない。I(情報)のあり方を変えようとしている」。『ウェブ進化論』の著者・梅田望夫氏はこう指摘する。インターネットを過小評価してきた日本企業,IT産業それぞれの将来について,梅田氏に改めて聞いた。
写真は栗原 克己)
『ウェブ進化論』の中で,梅田さんが一番伝えたかったメッセージは何でしょうか。
日本の経営者や,ITの専門家と言われている人たちは,つい最近までインターネットの世界について分かったふりをしていました。
特にITの専門家の人たちは,「ITのことは知っている」という自己認識がある。だから,インターネットの世界について,分かったふりをする。さらには,分かったふりをするために,理解したつもりになる。そのような悪循環に陥って,結果としてインターネットの世界を過小評価していました。
ウェブ進化論を通じて,「これからは,そのような認識ではまずいことになりますよ」と申し上げたかったのです。
1995年を「インターネット元年」だとすると,その後99年から2000年ごろまでは,日本企業の経営者も,ITの専門家の人たちも,「インターネットの登場で,ものすごく大きな事が目の前で起きようとしている」という思いを持っていました。だから当時は皆さんすごく勉強していたし,いろいろなことにトライしようとしていた。当然,苦労もしていたわけですが。
僕は当時,日本のクライアント企業から絶え間なく質問を受けていました。「シリコンバレーで何が起きているのか」とね。3か月ごとに米国に来る社長が,そのたびに僕に会いたいと必ずおっしゃるとか,そういう状況が1995年から2000年頃まではずっと続いていました。
ところが,2000年に起きたネットバブルの崩壊を機に,日本の大手企業のほとんどは「インターネットは大体こんなもんだ」と結論づけました。インターネットは,自分たち大企業を脅かすことはない存在だ。インターネットは自分たちのビジネスを便利にするための道具として,つまみ食いすればいいんだ。そのような認識です。
つまり,2000年以降,インターネットの世界で起きていることにほとんど興味が湧かなくなったのです。この状態が,2001年から2005年と5年も続いてしまった。
感じ取れなかった「ネットの潮目」
一方,アメリカでは2004年から潮目が完全に変わった。グーグル(Google)の台頭を含めて,「これは大変なことが起ころうとしている」という認識が芽生えはじめた。つまり,日米における認識のギャップがすごく大きくなった。
2004年から2005年頃,私がいくら日本企業に対してこの変化を説明しても,誰も分かってくれなかった。「潮目が変わって,IT産業が新しいフェーズに入ったんです。ものすごく大きなインパクトを与えます」。こう話をしても,分かってくれませんでした。「とにかく,ネットについては,一度そういうものであると結論づけたから,余計なことを言わないでくれ」。とまあ,こんな雰囲気だったんです。インパクトの大きさを分かってくれないだけじゃなく,インターネットの動きが面白いとも言ってくれませんでした。
2001年から2003年までは,そうした姿勢で正しかったと思います。その姿勢に基づいて,経営者は本業に徹し,企業を守ってきた。アメリカでも2003年頃まではバブル崩壊の影響があったので,日米における認識のギャップは開かなかった。
ところが2004年からはこの姿勢を変える必要があったのです。
2004年における一番大きな変化は何だったのでしょうか。
やはりグーグルの登場です。新時代のコンピュータ・メーカーです。
かつてIBMはメインフレームの覇者でした。その後DECがミニコンを出し,さらにパソコンやワークステーションが登場しました。その頃までは,コンピュータ・メーカーはコンピュータのアーキテクチャを設計して,OSを開発して,自分たちのコンピュータのありようを世に問うたわけです。
その後,インテルとマイクロソフトによる「ウィンテル」時代になってから,メーカーはコンピュータを設計しなくなりました。OSやプロセッサなどを外部から調達して組み立てることになったのです。