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90年代の進化を全て取り入れた

梅田 望夫氏

 一方,大学ではコンピュータ・サイエンスがどんどん進歩していた。この進歩の受け皿となるコンピュータ・メーカーがないまま,10年が過ぎていったわけです。この進化をすべて取り込んだのがグーグルです。

 これまでのコンピュータ・メーカーは,製造したコンピュータを量産して,一台ずつ,お客様の手元に届ける。メインフレームからパソコンに至るまで,基本的にはこの構造でした。

 これに対して,グーグルのインフラは自作です。ハードは調達しやすい安価なパソコンを使う。パソコン単体の信頼性については,一切追及しない。常時50万台,60万台のコンピュータを相互に接続して使っている。これだけの台数を動かしていると何パーセントかは故障しているでしょうが,その上で動く自作OSや自作ソフトで,可用性を高めているわけです。これだけの数のパソコンで分散処理を実行して,しかもハードの影響を受けずに処理を継続するわけですから,大変な技術です。90年代にコンピュータ・サイエンスの世界で得られた進歩が全部取り入れられているわけです。

 以前ならコンピュータ・メーカーで活躍していた人材が,グーグルで働いています。OSを設計していたグループがそろってグーグルに入社したとか,DECで「Alpha」プロセッサを開発した人たちがグーグルに移ったとか,そういう話を聞きます。

 米アマゾン・ドットコム(Amazon.com)や楽天といった「第1期ネット企業」は,サービスを提供するのに普通のコンピュータを使っていました。グーグルのように,新しいコンピュータ・アーキテクチャを用意して,ユーティリティ・コンピューティングや新しいネット・サービスをやろうとしたわけではない。

 1980年代から「ユーティリティ・コンピューティング」が言われていました。コンセプトとしては言われていたけど,本当に実現したのがグーグルじゃないでしょうか。インフラを自ら作り,検索などのサービスを提供する。いわば「情報発電所」を作ったわけです。これをウェブ進化論の中では,「あちら側」という言葉で表現しました。

 最近では電子メールやワープロ,表計算のソフトをコンピューティング・リソースとして提供し始めた。要するに,個人の知的生産に使う道具は全てグーグルが提供します,というわけです。

社会のあり方まで変えてしまう

グーグルはコンピュータ・メーカーそのものといえるし,あるいは既存のコンピュータ・メーカーを超えた存在ということになるでしょうか。

梅田 望夫氏

 評価の仕方はいろいろありますが,あんなにすごい会社はこれまでなかったと思います。グーグルは自社のインフラを使って,個人のライフスタイルや社会のあり方まで変えてしまう。

 グーグルがやろうとしているのは,「IT(情報技術)革命」ならぬ「I(情報)革命」です。グーグルは自身のインフラを使って,世界中の情報を全部整理し,提供しようとしています。グーグルは,情報の世界に革命的な変化をもたらそうとしています。

ネット広告市場3兆円が10倍になった時

 グーグルがユーティリティ・コンピューティングとして提供しているITインフラは「受益者非負担」型です。受益者はグーグルのメール・サービス「Gmail」やグループウエアを使っている人のことで,この人たちはサービスに一切お金を払わなくていい。その代わりに,データは基本的に自分の手元には置けません。グーグルを信用してグーグルのサーバーに置くなど,誰かのところに預ける。

 ユーザーからお金を取らなくてもサービスを運営できる理由は,広告があるからです。広告を配信するインフラをグーグルは持っています。今,全世界の広告産業の規模は,狭い定義でも50兆円,販促やマーケティング費用なども含めれば100兆円の規模です。さらに,ロングテールの部分,つまり,今まで広告を出してこなかった人たちが使うであろうお金がさらに50兆円あるとみています。

梅田 望夫氏

 これだけの広告費のうち,ネットの分野に移ってきているのは,まだ全世界で3兆円くらいなのです。150兆円もの額がまるごとネットに移ってくることはないでしょうが,3兆円の10倍,つまり30兆円も原資があれば,全世界の個人が使うITニーズは,すべて受益者非負担で提供できるはずです。米マイクロソフトの売上高は法人向け・個人向けを含めて約5兆円です。それを考えれば,十分な金額でしょう。

 ただ,こうした受益者非負担型のサービス・インフラは,いきなりゼロから作ろうとしても,なかなか実現できません。柔軟で,発電所のように巨大なコンピュータ・システムが必要なのです。

 もちろんグーグルのシステムだって人間が作ったものですから,同じようなものを作るのは不可能ではない。だけど,誰でもできることではないですね。いま,これから作ろうと決心して実現できる会社は,せいぜい米ヤフーとマイクロソフト程度でしょう。だからこそ,グーグルには圧倒的な競争優位性があると僕は見ています。