PR

マイクロソフトは変われるか

IT業界の覇者とみなされてきたマイクロソフトは,どう変わるでしょうか。

 マイクロソフトを見るとき,法人事業と非法人事業を分けて議論しなければいけません。法人事業のほうはまず磐石と言ってよいでしょうが,非法人のほうはこれから大変じゃないかと思います。グーグルが登場したからです。

 グーグルは,Web上でワープロや表計算機能を提供する会社を買収し,独自開発のサービスを強化しました。つまり,メールやスケジュール管理も含め,グーグルがソリューションを提供するというわけです。次第に,一般消費者はOfficeを使わなくても済むようになる。もちろん,企業ユーザーはOfficeを使い続けるでしょうし、消費者もしばらくの間はパソコンにバンドルされたOfficeを無意識に使い続けるでしょうが、次第に利用度,依存度が下がっていくことでしょう。

 もちろん,マイクロソフトにも変われる余地はあります。しかしネットは,これまでのIT業界とは違う世代の人たちが,違うものの考え方で作っている世界だから。マイクロソフトがそうした違いを認識したとしても,本気で資金や人材をそこに投入できるかというと,さすがに難しいのではないでしょうか。

 グーグルが出てこなかったら,こんな議論は必要なかった。やはり,ネットの動きは,グーグル以前と以降で区別して議論すべきでしょう。

ネットの新しい動きは,グーグルを見ておくことで分かるのでしょうか。

 現状では,グーグルが何をするかを見ることで,ネットの動きはかなり見えてくる。動画共有サイトのユーチューブ(YouTube)を10月に買収したのはいい例です。

 ウェブ進化論を2006年1月に脱稿して,11カ月経っています。この11カ月間で唯一書き足さなければいけないのは,ユーチューブだけなんです。細かい動きは,全部この中に書いたことで説明可能です。

 ユーチューブは2006年最も話題になった企業です。つまり,ユーチューブはネット産業における2006年の差分だった。それをグーグルが買い取った。要するに,グーグルはネット産業における2006年の差分を全部買い取ったわけです。

 技術はさておき,ユーチューブは新しい文化の創造ということをやってのけた。新しいテレビ視聴のあり方みたいなものを作ったわけです。ユーチューブはあれだけの大量のトラフィックを呼び込んだ。ユーチューブというブランドが広まり,新しいテレビ視聴のあり方が生まれた。そしてユーチューブという新しい動詞ができた。だからこそ,米タイム誌が,「Invention of the Year(今年最高の発明)」にユーチューブを選んだのです。

 僕は,ウェブ進化論で「総表現社会」という言葉を使いました。ユーチューブは映像による総表現社会を体現しました。みんな自分でカジュアルに映像を撮って,それを不特定多数の人に向けてブロードキャストする。以前もやろうと思えばできたけれど,ユーチューブは本当にそれができるのだということを,全世界の人に知らしめた。そして,違法画像も含めてユーチューブのサイトにいろいろな動画が流れ込んだ。ユーチューブで「映像はとんでもない力を持っているんだな」とみんなが認識したわけです。

Web3.0はまだ見えず

梅田 望夫氏

「Web2.0」の次,「Web3.0」は有り得ますか。

 そのような議論は今すべきじゃないと思います。というのは,「1.0」から2.0までに10年かかっている。1995年の時点では,1.0と言っていなかった。「いま盛んにWeb2.0と言われているけれど,そもそも1.0って何なの」と問われたらどう答えますか。

 実は,今もインターネットの大半は1.0です。例えばショッピングサイトで本を買う行為とそのインフラは,1.0でしょう。1.0のインフラがなくなって2.0のインフラに切り替わるわけではなく,1.0のインフラがどんどん大きくなっていって,その上に2.0が始まったのです。だから,3.0が生まれるのは,少なくとも5年か10年は先でしょう。ちょっとした目先の変化をとらえて,3.0と言うべきではないと思います。

 シリコンバレーで十数年間生きてきた僕の皮膚感覚ですが,まず1994年から95年に「インターネットが来たな」という感覚がありました。パソコンの波が来て以来の,インターネットというものが来たなという感覚です。10年,あるいは15年に一度,大きな新しい時代の波が来るわけです。1960年代にディフェンス(防衛技術)の時代を経てシリコンバレーと言われるようになり,インテルが生まれ,マイクロプロセッサが登場し,今度はアップルコンピュータやマイクロソフトが出てパソコンの波が来て,1980年代にはシスコの波が出てきてみたり。

 そして1994年にインターネットの波が来た。シリコンバレーでは「小さな波はいろいろあったけれど,これは久しぶりの大波だね」という認識でした。

 インターネットは2000年に一度はじけた。「インターネットってすごいと思っていたけれど,これで終わりか」と,みんな本気で思いました。僕が最初にお話ししたように,日本企業が下した「これで終わり」という判断は,2001年から2003年においては正しかった。シリコンバレーでも,「こんなものだったのか,インターネットは」という認識でしたから。

梅田 望夫氏

 2002年から2003年の頃に,シリコンバレーでは「next big thing」は何かという議論がさんざんありました。「バイオだ」と言っている人がいるし,「ナノテクだ」と言った人もいるし,「代替エネルギーだ」と言っていた人もいるし。つまりnext big thingは,インターネットの次,という意味です。シリコンバレーがまた輝くためには,常にシリコンバレーがフロンティアでなければいけない。ただ,「じゃあ一体何だろう」と議論していたわけです。

 当時はインターネット関係の会社が軒並み潰れていました。もちろん日本のネット企業も同じような状況だった。で,シリコンバレーでは2003年頃に「グーグルはすごいね。あれはとんでもないものになりそうだね」という話が出てきた。

 ブログの登場はもっと前だし,「ウィキペディア(Wikipedia)」だって2001年ぐらいから始まっていた。グーグルだって研究開発は1996年ぐらいから始まっていたわけだから,どれも急に立ち上がったわけではない。けれど,ネットバブル崩壊の焼け跡を乗り越えて残ったものには,目立った特徴,共通項があったわけです。

 「この共通項は何なのだろう」,それから「これはどのくらい大きな波なのだろう」ということをみんな2004年頃から考え始めていた。その間に,グーグルが売上を伸ばし,上場し,どんどん株価が上がっていった。リアルマネーがきちんとそこで動き始めているという共通認識が出来上がったところで,「ああ,これってWeb2.0だったんだ」という結論に落ち着いた。これまで「ネットは1.0で終わりだ」と思っていたけれど,気がついたら「ネットはWeb2.0になっていた」ということですよ。

 だから,Web2.0の定義はいい加減なんです。理論が先にあったわけではなく,そこで起こっている現象と以前との違いを列挙していった。例えば,「参加型」は2.0だと。「昔だってホームページは作れたじゃない」といった指摘はできるけれど,技術面などで細かく定義していくと,やはり1.0と2.0は違うんです。

 個々の現象ごとの違いはさておき,まずは2.0という同じバケツに全部入れてきました。あと5年ぐらいは,新しい現象が見えてきたら,バケツに放り込む。そういうものを含めて,「2.0だね」と言い続けていればいいんです。