新しいものを楽しめない日本
Web2.0の時代,日本は生き残れますか。
日本が技術的に劣っているとか,日本人に能力がないとか,そういうことではないです。それよりも,日本の課題は新しいものに対する態度であると思っています。
例えば,タイム誌がユーチューブをInvention of the Yearに選んだ。こんなことは,日本ではあり得ないでしょう。
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掲示板の「2ちゃんねる」がブームになった時に,日経ビジネスが賞を与えた,というイメージなのでしょうか。
ちょっと言いすぎかも。でも,いい線ですね(笑)。
結局,新しいものはいつでも批判されるんです。グーグルだって,今はみんな「グーグルはすごい」と言うけれど,出てきた当時はいろいろ言われていた。
だからこそ,誰かが何か新しいことをやろうとしているときに,シリコンバレーではまず「面白いね」と言うわけです。加えて,「おれが骨を拾ってやるから最後までがんばれ」というような社会のムードがある。実際,出資してくれる人がいて。だけど,日本にはそういう文化はなかなかできない。
若い世代と交わっていなかったら…
梅田さんは最近,20代から30代の若い技術者や経営者に会う機会を増やしているそうですね。若い世代と接していて,何か感じるものはありますか。
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9.11(2001年に発生した米国の同時多発テロ事件)の後,自分より年上の人に会う時間をつぶしてでも,若い世代と付き合って,若い世代からいろいろなことを教わろうと決心しました。そのように生き方と考え方を変えたから,僕は「ウェブ進化論」を書くことができました。
僕は最初,若い人たちに向けて,僕が考えていることを発信しようと考えました。それで,ブログを書き始めました。ブログをきっかけにして,多くの若い人たちと交流してきました。新しい風と言ったらいいか,そういうものを僕は体で感じました。そのおかげで,新しい世界を感じることができたのです。
生き方と考え方を変えていなかったら,僕は新しい世界をこのような理解ではとらえていない。変えなかった僕はきっと,ウェブ進化論の読者になっていたことでしょう。だから,日本企業の経営者やITの専門家の現状は,僕にとって決して他人事ではないわけです。
はてなの取締役になった理由は何ですか。
近藤淳也(はてな代表取締役)という創業者が何か大きなことをしてくれるのではないかな,と。そういう気配を持った稀有な日本人だったので。
当時,はてなが提供していたサービスのどこかに引かれたということではなかったですね。ただ,「なるほど,この時代にこういうものを作ったのか」という感想は持ちました。例えば,ブログが世に出てくる前に「はてなダイアリー」を作ったとか,不特定多数の人を信頼した「人力検索」という新しいサービスの形を構想したのが2001年だった,とか。その辺りの時代感を僕はクリアに覚えていて,2001年にそういう構想を思いつく人は,2007年にまた違ったことを考えつく人かもしれない。彼への僕の期待は,そういう類(たぐい)のものです。

はてなは,RSSリーダーが登場する前にはてなアンテナを作っている。新しく作ったサービスをどこまでビジネスにできているかというと,ミクシィ(mixi)などの方がうんと成功しています。ただ,クリエイティビティという意味ではどうか。ミクシィは米国でソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)というカテゴリが台頭しているのを見て構想された。それで大成功した。僕はミクシィを高く評価しているので悪く言うつもりは全くありませんが,一般的に言うと,日本人はそういうことは上手くできるんです。
いま近藤は米国に来て苦労しています(関連記事:はてなが米国進出,シリコンバレーに子会社)。苦労というか,いろいろ新しいものを生み出そうという生みの苦しみをしているわけですが。苦労しているけれども,ゼロから物事を考える人なので,何かを生み出してくれるかもしれない。
今度はどんなものを出してくるか,近藤氏に期待しているということでしょうか。
今のはてなのサービスがどんどんシェアを確保していって,それで終わり,ということではないです。逆に言えば,これまでのものとは違う,新しいものが出てこなければ,あの会社は成功したという評価にはならないでしょう。
実際,近藤はそう思っています。自分が今まで作ったサービスで終わりにするのなら,何のために会社を作ったのか分からない。だから近藤にとって,これからやることはまだまだたくさんあるわけです。近藤は,全く新しいものを生み出し,日本人だけでなく世界の人が使うサービスを作りたいと本気で考えています。
≪梅田氏のインタビューは,日経コンピュータ12月11日号にも掲載しています≫
ミューズ・アソシエイツ社長 はてな取締役
