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最近になって拡張現実(AR)が注目を浴び始めた理由をどう考えるか。

 確かに,AR的なインタフェースを携帯電話や端末に取り入れたさまざまなアプローチやアイデアが登場してきているが,セカイカメラはARの実現を目的としたものではない。

 TechCrunch50(2008年に米国で開催されたイベント)で初めてセカイカメラのプレゼンテーションをした際に,実は電脳コイル(ARをモチーフにしたアニメ)や,ARという言葉を知らなかった。

 その後,セカイカメラという存在していないものを動作する形に仕上げるには相当悩み,試行錯誤を重ねた。イバラの道だった。ARを実現したかったのではなく,セカイカメラを作りたかったからこそ,苦労を乗り越えた。ソニー創業者の盛田昭夫氏も,ラジカセを小型化する技術が欲しかったのではなく,ウォークマンが作りたかったはずだ。

 ユーザーがARという言葉を知っていることがいいことなのか分からない。ARだから触ろうではなく,セカイカメラだからこそ触りたいという形にしていきたい。

プラットフォームにiPhoneを選択した理由は。

 iPhoneで展開した理由は,処理速度,各種機能,デザイン,ユーザー・インタフェースといったハードウエア面での土台が洗練されていたこと。さらに一定の台数が普及しており,App Storeというアプリ配布のチャネルもあるからだ。

 現在はiPhoneという一部プラットフォーム上で実践しているが,今後はAndroid,ノート・パソコン,そのほかの機器にもセカイカメラを入れていきたい。

 ノート・パソコンにセカイカメラを組み込めば,会議室に行くと,レジュメやパワーポイントの資料がエアタグで置いてあり,そこにいる人だけがそのデータを入手できるといったビジネス用途の使い方もできるだろう。

今後,セカイカメラのAPIを公開するというが何が実現できるか。

 今後「Open Air」と呼ばれるセカイカメラのAPIを開発し,公開する。用途の拡大を自分たちで100%手がけていくのは実質無理だ。さまざまなプレーヤの参加を促し,広く利用してもらい,豊かなサービスと用途を創出してもらいたい。広々と青々とした空のようなオープンな環境を目指してOpen Airと名付けた。

 Open Air APIを使えば,セカイカメラに情報を送ることも,逆に情報を取り込むこともできる。クラウドとのマッシュアップをすることで観光情報,ルート情報,健康管理,家計簿,グルメ情報,クーポン配信などサービスが考えられる。不動産や土地の値段,賃貸物件の情報などを表示してもいい。建物をセカイカメラで見ると2階の205号室の間取りが出てきて「ここが空いてますよ」と表示するという具合だ。さまざまな場所でポケモンを探すといったゲームも実現できるだろう。

 家電との連携も考えられる。例えば,セカイカメラで冷蔵庫を写すと,「チーズがなくなりそうです」「ミルクの鮮度が落ちています」「卵が切れそうです」とエアタグが出てくる。電子レンジにかざすとレシピや近くのスーパーのセール情報が出てくる。テレビにかざすとおすすめの番組が表示され「録画しますか」と聞かれる。

 車にかざすとガソリンの残量が現れる。役所の建物にかざすと「パスポートの手続きが何分待ち」と出る。空港にかざすとフライト・スケジュールが出る,といった形も考えられる。今ままでのように,ノート・パソコンを開いて検索する必要はなく,現実空間がネットと連携している。このような現実空間を触ったり,操作できるという環境を「クリッカブル・ワールド」と呼んでいる。

 サービス事業者がこうした環境やサービスを構築できるように,エアタグを地図上で配置し,管理できるエアタグ・マネジメント・システムも開発した。

セカイカメラの今後の課題は。

 まずはエアタグのフィルタリング方法。レーティングやランキングなどの機能を付加し,ユーザーが見たくないものを表示しないようにしていく。週に1回など定期的に,必要のないエアタグを掃除するという方法も考えられる。

 次に,クラウド・サーバーの強化。最初は国内向けに配信したが,近い将来には世界各国での配信も予定している。そうなると1日24時間,世界中からアクセスが来るはずだ。サーバーは米アマゾンのEC2を使っており,多重化,ロードバランサーの設定などスケーリングをするためにテクニックを駆使しているが,今後も増強が必要になるだろう。

今後はセカイカメラをどのように育てていくか。

 セカイカメラで人間のフィーリングを共有できるようにすることで,近所の人から,海外の人々までコミュニケーションの壁をなくしたい。日本人は言葉が通じないときに怖いと考える傾向があるが,言語を超えてコミュニケーションできる環境を作りたい。

 同時にさまざまなプレーヤがさまざまな仕組みを開発できる環境を提供し,一緒に新しい夢のある,希望のある世界を作りたい。販売して収益を稼ごうという,短期的なスケールでは考えていない。