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「高速道路無料化」は劇的な効果がある

星野リゾート代表取締役社長の星野 佳路氏氏
星野リゾート代表取締役社長の星野 佳路氏
写真:丸毛 透

 それは、劇的な効果があると思いますね。物流コストの低減で生産性にも利きますし、国内旅行の増加も期待できます。日本を旅行すると、移動にお金がかかり過ぎます。高速道路も高いですし、ガソリン代にも税金が乗ってくる。

 それから、国内の航空料金も高いですね。92も地方空港があるにもかかわらず、LCCと呼ばれる格安航空会社が1社もありません。LCCは今、欧米で3割くらいのマーケット・シェアを占めています。ところが、アジア全体では12%程度、日本でのシェアは本当に少ないです。

 例えば、LCCを利用してロンドンからフランスのアルプスにスキーに行くと、だいたい往復8000円で済みます。日本では、東京から国内の北海道にスキーに行くのでさえ、片道3万円くらいかかりますよね。こういう国内移動コストは、旅行客にとっても負担ですし、当然、我々旅行産業にとっても負担です。

サービス産業の生産性向上については、国の政策に期待するところは大きいですか。

 先ほど、ホテル・旅館の稼働率が偏る問題に触れましたが、これは国の問題です。例えば、フランスには2月と4月に2種類の休みがありますが、この国では、A、B、Cというふうにフランス全土を区分して、A地区は2月の1週目と2週目が休み、B地区は2週目と3週目、C地区は3週目と4週目を休みにするというように、休暇の日を地区ごとにずらしています。その結果、旅行需要が平準化されて、2月は1カ月間通してスキー場が賑わっています。高速道路も混雑しません。

 この制度は、フランスの観光産業を強くしていますよ。ですから、私は日本でもゴールデンウィークを都道府県別に設けることを国に提案しています。これは、祝日に対する法制度を変えなければ実現できないことですけどね。

 休日をバラけさせて旅行などの需要を平準化することは、サービス産業の競争をあおると同時に、生産性を向上させます。全国一斉に休日を取る現在の日本の制度は、製造業の生産性を追求するように考えられた仕組みです。製造業が日本の産業の中心だった時代は、工場のラインを止めるときは、サプライヤーなども一緒に休めるように、全国一斉の休暇が都合がよかったのです。

 ところが今や、日本の就労者の大半はサービス業にいます。製造業のラインは、どんどん海外に移転して、国内における製造率が少なくなってきているわけですね。ですから、そろそろ製造業のための休みの在り方や社会制度を、サービス産業のためのものに変えていかなければいけないと思います。

オフィス街のレストランは、お昼の1時間でほかの8時間の赤字を埋めている

 製造業中心の制度によるサービス業の生産性低下は、休日だけでなく1日の中でも起こっています。例えば、工場では12時から午後1時までラインを止めて一斉にお昼ごはんを食べますよね。なぜかその制度が今でも全国に定着しており、東京のオフィス街でも12時になると急に飲食店が混雑し出します。オフィス街のレストランは、付近の人たちに昼食を提供するのに十分なキャパシティーを持っているのに、12時からの1時間に需要が集中するから行列ができてしまう。そして、それ以外の時間帯はガラガラですから、お昼の1時間で、ほかの8時間の赤字を埋めているわけですよ。

 この、製造業的な習慣を少し工夫して、朝7時に出勤する会社があったり、11時からお昼を食べる会社があったりすれば、電車の混雑も緩和され、レストランの生産性が非常に上がりますね。今は日本の約6割の人がサービス産業に就労しているわけですから、製造業が中心だった昭和の時代の制度を見直して、サービス産業の生産性が上がるような社会的システムにするには、どうしたらいいだろうかということを考えた方がいいと思いますね。

官民挙げて、サービス産業中心の社会システム作りに取り組むべきだと。

 そうです。これまで製造業が工夫してきた道のりをサービス産業もたどっていかなきゃいけないし、サービス産業が生産性を高めて世界の中で産業競争力を付けようというときには、それを国が制度的に後押ししていかなければいけません。内需拡大といいますが、国がお金を使って内需を高めなくても、11時からランチを食べましょうと提案するだけで新しい内需を作れますよね。

星野 佳路氏
星野 佳路氏

 今、レストランでランチを食べたいけど混雑するから利用しない、という人は結構多いのではないでしょうか。そういう潜在的な内需が顕在化していないケースがサービス産業ではたくさんあるんです。

 旅館産業でも、例えば、ゴールデンウィークに少し贅沢(ぜいたく)をして1泊5万円の高級旅館に泊まりたいと考える人はたくさんいるのに、この時期は予約がいっぱいなのに泊れない。お金を持ち、その旅館に泊まりたいと考える人がいる、そこに内需があるのに、それが顕在化できていないことが問題です。

 日本では、自動車やパソコンが売り切れていて買えないという事態にはほとんど遭遇しませんよね。ところが、サービスの場合には、買いたいけど買えない事態が頻発しています。製造業の場合はこんなことあり得ません。

 スーパーに行って、牛乳のコーナーに牛乳がないという事態になったら、この国はどうなっているんだと思うけど、サービス業だと我々は売り切れに慣れ切っていて何も感じなくなっています。ランチの時間帯に外食ができない、休日に旅館が予約できない、こういう状態の異常さに気づかなくなっています。

星野 佳路(ほしの よしはる)氏
星野リゾート 代表取締役社長
 1960年軽井沢町生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、86年米国コーネル大学ホテル経営大学院にて経営修士号を取得。日本航空開発、シティバンク勤務を経て、91年星野リゾート代表取締役に就任。2001年以降、リゾナーレ(山梨県)、磐梯リゾート(福島県)、アルファリゾート・トマム(北海道)などの破綻したリゾートの再建、2005年より米ゴールドマン・サックスと提携し温泉旅館の再生を手がける。2003年観光カリスマに選定。