PR

 省エネ法や東京都の「環境確保条例」が改正され,電力を大量に消費する事業所は,2010年度から温室効果ガス排出の総量削減が義務づけられる。その結果,企業が自社のサーバーをデータセンター事業者に預ける動きが加速している。
 だがサーバーを“放出”すれば,自社のグリーンITが完了すると考えるのは間違いだ。ユーザー企業と事業者が共にデータセンターの省エネ化を図っていくことが,これからのグリーンITになる。一方で,データセンターのエネルギー効率を評価する指標を国際標準化する動きが活発だ。データセンターを省エネ性能で格付けする時代がまもなくやって来る。
 グリーンITの今後の方向性とデータセンター効率指標の標準化の現状について,野村総合研究所の椎野孝雄理事に聞いた。

(聞き手は福田 崇男=日経コンピュータ高木 邦子=ITpro



野村総合研究所 椎野孝雄理事
野村総合研究所 椎野孝雄理事
[画像のクリックで拡大表示]

 最近のグリーンITの動きをどのように見ているか。

 グリーンITには,IT機器自身の省エネ化を進める「Green of IT」と,ITを活用して事業活動に伴う環境負荷を低減する「Green by IT」があるが,それぞれ,ある方向性が見えてきた。Green of ITの方は,個々のIT機器の省エネだけではなく,それらを含めたデータセンター全体での省エネを進めようという考えになってきた。一方,Green by ITの方は,「IT×省エネ」から「IT×新エネ」に向かおうとしているのではないか。スマート・グリッドが話題になっているが,これは再生可能エネルギーの普及と社会全体でのエネルギー効率向上をITを活用して実現していくことを目指したものだ。

Green of ITの焦点がデータセンターの省エネに向かっているというのは,環境規制の強化が影響しているか。

 かなり影響している。国や東京都は,オフィスビルからのCO2排出量を削減するため,ビル単位での規制に乗り出している。特に東京都の方は,年間の燃料,熱,電気の使用量が原油換算で年間1500キロリットル以上の事業所に対し,2010年度から実質的な総量削減義務を課すことになった。サーバーやネットワーク機器が集積しているデータセンターでは,床面積当たりの電力消費量が大きく,削減義務の対象になるところも多い。基本的には,通常のオフィスビルと同じ8%の削減義務率が適用される。

 その結果何が起きているかというと,自社ビル内にサーバー室を持っていた企業が,データセンター事業者にサーバーなどを預ける動きが活発化した。「データセンター事業者にIT機器などを預けた場合,使用時に消費される電力は自社の実績に合算しなくてよい」という見解を国や都が示したからだ。

 データセンター事業者は積極的に施設を拡張あるいは新設してユーザー企業のニーズに応えようとしており,大きなビジネス・チャンスになっている。一方で,データセンター事業者は,集約されたIT機器を含め,施設全体の省エネに取り組まざるを得ない状況にある。Green of ITがデータセンターの省エネ化に向かっているというのは,こうした理由による。

企業のシステム部門は,事業者にサーバーを預ければそれでグリーンITの課題は解決するのか。

 そうではない。最近,興味深く思っているのは,ユーザー企業の中に,預けたサーバーが実際に消費した電力をきちんと計測して報告してほしいという要求を出すところが増えていることだ。その理由は,一つにはコスト削減からの要請で,従来は機器の定格電力を基に電気代を払っていたものを,実際に消費した電力分だけを支払いたいというもの。それともう一つ,規制には無関係とはいえ,自社が行っている事業活動や情報サービスによってどれくらいのCO2が排出されているかを把握したいというのである。

 こうした企業の狙いは,製品やサービスのライフサイクル全体にわたってCO2排出量を見える化すること――カーボン・フットプリントの考え方に基づいている。カーボン・フットプリントの制度そのものは,現在のところ企業の自主的な取り組みに委ねられていて,規制にはなっていない。しかし今後,情報サービスにおいても「環境」が付加価値になることは十分考えられる。CO2排出量の実績データを把握しておくことは非常に重要だ。

 データセンター事業者は,こうした顧客のニーズに応えるべく,電力メーターを顧客ごとに取り付けるなどして対応している。これはとてもいい方向だ。データセンター事業者にサーバーを任せてそれでおしまいというのではなく,顧客と事業者が一緒になってデータセンターの省エネ化を図っていくというのが,これからのグリーンITの姿と考える。