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[前編]ROI最優先のIT投資は禁物 これからリターンを得ていく

 日本マクドナルドホールディングスが好調だ。2009年12月期中間決算で、直営店・フランチャイズ店の全店売上高が過去最高を記録。好業績の理由について、原田泳幸CEOは、「痛みを避けずに改革をやり遂げた結果だ」と明言する。2009年8月に完了した数百億円規模のシステム刷新も改革の一つである。

CEOに就任してから今まで、どのような手を打ってきたのか。

 ほとんど全部を入れ替えたと思いますよ。店舗のキッチン・システムやサプライチェーン・モデル、ブランドマネジメント、業務を支える情報システムなどあらゆるものを変えました。

 2004年2月にCEOに就任してからの6年間、様々な手を打ってきました。でも成功ばかりではなく、失敗もたくさんありましたよ。

 例えば、値段。ハンバーガーを100円から120円に値上げした途端、売り上げがドーンと下がり、すぐに元の値段に戻したことがありました。お客様の反応は、10円、20円でがらりと変わるのです。その当時は、周囲からいろいろと言われました。

 改革には、変化に伴う痛みがあるものです。失うものもあれば、犠牲にするものもある。でも、これらを避けようとして、尻込みしてはいけない。改革は結果が出るまでやり通す。ぶれずに突き進むことの大事さを改めて感じています。当社の従業員は、多くの改革を経験しました。以前よりずいぶんとたくましくなったと思いますよ。

IT投資額は新規出店3000店舗に匹敵

改革の一つに、社内情報システムの刷新もあった。

 ここ数年間、会計や人事など業務を支える基幹系システムの再構築や、店舗POS(販売時点情報管理)端末のリプレースなどに取り組みました。システム化の痛みといえば、ものすごくお金がかかったことかな(苦笑)。

 ざっくり数百億円は投じた。当社にとって、どれくらい大きな投資だったかわかりますか? 新規に3000店舗以上を一斉にオープンするのに匹敵するほどの金額です。

 これだけかけても、すべての情報化投資が明日の売り上げにつながるかというと、そうではない。これをやり遂げるには、相当な勇気と覚悟が必要です。

そうまでして、なぜ情報システムの刷新に巨費を投じたのか。

 私1人だけでなく経営会議を通して、必要だと判断したからですよ。

 今後手掛ける様々なビジネスモデルを実現可能にするためには、情報インフラを整えておかなければならない、ということです。

今回のシステム再構築に関する投資対効果(ROI)の議論は。

原田 泳幸(はらだ・えいこう) 氏
写真:ノザワ トシアキ

 情報システムへの投資が、どれだけ売り上げに貢献するのか。その直接的な効果の検証は極めて難しい。

 例えば、社内でイントラネットを作ったとします。これでコミュニケーションが円滑になったという効果が出ても、本来の目的はコミュニケーションの改善ではありません。生産性を向上させることだったりします。

 ところが、コミュニケーションの改善がどのように生産性向上につながったのかを計測することはできない。会議の回数が減ったのか、伝達スピードや質が上がったのかという効果を、定量化して見せろと言っても無理な話です。システム化の企画段階で、投資対効果の議論をしていたら、何もできないでしょう。

 効果を上げるために大事なのは、システムを整備した後です。新しいシステムが出来上がったら、マネジメントスタイルをチェンジしなければならない。会議体を変えたり、意思決定プロセスを変更したりする。

 経営陣や従業員の意識や仕事の進め方を変えないと、情報化投資のリターンを得られない。最悪の場合、投資しただけで終わってしまう。

 情報システムが経営のためのハードウエアだとすると、これを使う従業員や経営者がソフトウエアじゃないですか。新しいハードを使いこなすためには、使う側の意識を変えていかなければいけない。

 これまではシステム部門を私が直轄してきましたが、「IT投資がでかいぞ、大丈夫か」などと一言も発したことはありません。だけど今はこう言っています。「終わったのだから、リターンを出せ」と。

2009年からは、情報システム部門が財務本部の管轄になった。

 これまでシステム部門を私が直接見ていたのは、会社全体で最適なITアーキテクチャを考えさせた上で、システム開発を進めたかったからです。新たな発想でITインフラを整備する場合、開発の段階と使いこなしていく段階とに分けて考える必要があります。

 当社の場合、eマーケティング分野のシステム開発は今後も続けます。これを除くと、おおかたのシステム開発が終わり、使いこなしていく段階に入りました。

 システム活用の段階では、投資した分を回収しなければならない。開発したもののなかでリターンを出せないものについては、縮小するなどの調整作業も出てくるでしょう。

 この部分をCFO(最高財務責任者)に任せるのが得策だと判断しました。ITインフラの管理とマネジメントシステムの変革を進めてもらいます。

 この5年間は旧システムと新システムが並存していた。今後1年ぐらいかけて、旧システムをどんどん捨てていきます。こうすればTCO(所有総コスト)が他の企業と同じくらいの水準になるとみています。

日本マクドナルドホールディングス
代表取締役会長 兼 社長 兼 CEO

原田 泳幸(はらだ・えいこう) 氏
1972年東海大学工学部通信工学科を卒業後、日本NCRに入社。以降、横河ヒューレット・パッカード、シュルンベルジェなど長年にわたってIT業界で活躍し、97年にアップルコンピュータ代表取締役社長兼米国アップルコンピュータ副社長に就く。2004年2月、日本マクドナルド代表取締役副会長兼CEO(最高経営責任者)に就任。同年5月に日本マクドナルドホールディングスと日本マクドナルドの代表取締役副会長兼社長兼CEOに、05年3月より両社の会長兼社長兼CEOに就く。1948年長崎県生まれの60歳。

(聞き手は、戸川 尚樹=日経コンピュータ副編集長、
中井 奨=日経コンピュータ記者)