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 米IBMのGlobal Business Services(GBS)で、メディア/エンタテインメント業界を担当するSteven Abraham氏に、放送と通信の垣根が低くなりつつある現在のメディア、広告業界のトレンドについて聞いた。

(聞き手は,西畑 浩憲=日経ニューメディア


米IBM Global Business Services(GBS)のSteven Abraham氏
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海外と比べて日本はビデオ・オンデマンド(VOD)サービスの利用が進んでいない。海外とのビジネス環境の違いは何か。

 米国には月額料金を基本とした巨大な有料放送のビジネスがあり、視聴者は有料サービスの利用に慣れている。このことが要因だろう。逆に米国にはNHK(日本放送協会)のような受信料制度はない。英国の環境は日米のハイブリッド型だ。NHKの受信料に相当するライセンス料の支払いが必要なBBCと、有料放送のBSkyBが共存している。フランスも英国同様だ。ポイントは、有料放送のビジネスが日本よりも大きいこうした地域では、VODのような有料コンテンツに追加の代金を支払うことに消費者が慣れているということだ。

 さらに米国では、ビデオやDVDのレンタルビジネスも発達している。レンタルとVODで料金がそれほど変わらないことも、VODの利用を後押ししている。

日本ではVODに対するニーズはないということか。

 日本でも普及するチャンスはある。日本で放送事業者がVODサービスを本格的に手掛けてまだ約1年半しかたっておらず、現在の状況だけでVODにニーズがないと判断するには早すぎるだろう。サービスをより洗練/高度化することで、きっと日本でも定着するはずだ。

 パソコンや携帯電話機向けよりも、テレビ向けのVODサービスの方が有料サービスとして受け入れられやすいのではないか。というのも、Webや携帯サイトには無料のサービスが溢れているからだ。米国や英国の興味深いトレンドとして、有料放送とVODを組み合わせたサービスがある。有料放送の加入者向けに、パソコンや携帯電話機からもオンデマンドで番組を見られるようにする付加サービスだ。視聴者はいままで通り月額利用料を支払うというスタイルで、より様々なシチュエーションで番組を見られるようになる。

CATV事業者がそうしたサービスを提供する狙いは何か。

 CATV事業者は、Webで提供されている無料動画配信サービスに既存顧客が奪われる前に、先手を打とうとしている。先ほどのサービスはまだ初期段階で、CATV業界で広く普及しているわけではないが、様々な事業者が取り組みを始めている。

 米国ではCATV事業者とはまた別の理由から、様々な事業者がパソコンや携帯電話機向けの動画配信サービスに取り組んでいる。例えば携帯電話事業者は、消費者がほかの携帯電話事業者に乗り換えることを抑止するために動画配信に取り組んでいる。また放送事業者は、できるだけ多くの視聴者数を確保することで広告枠を高く販売することを目的に、動画配信に取り組んでいる。米国市場では様々なプレーヤーが動画配信に参入し、主導権を取ろうと争っている状況だ。

動画配信は単に放送を置き換えるサービスなのか。

 モバイル機器やWebサービスの利点は、消費者とやり取りができる点にある。消費者の行動履歴から好みを分析し、様々に活用できる。広告主にとっては魅力的な要素になる。

そうしたインタラクティブな広告の持つ効果については、共通の評価指標がなく効果を測りづらいという声もある。

 確かにその問題がある。同じ問題を持つインターネットサービス向けの広告料金が相対的に安価に落ち着いているのもそのためだ。(バナーのような)ディスプレイ広告には標準的な料金体系がないし、標準的な効果測定方法もない。

 インタラクティブな広告向けに効果を測る共通指標を作ることは一見簡単なように思えるかもしれないが、すべての事業者間で合意するのは難しいだろう。現在標準的に使われているテレビの効果測定指標は洗練されているとは言い難いが、何十億米ドルの広告を左右する力を持っている。もっと正確な効果測定方法の開発は、既存の放送事業者にとって脅威となる可能性があり、実際にそうした共通指標を作ろうとしたところが様々な抵抗に合っているという話も聞いている。

 しかし、ゆくゆくはそうした指標を作らざるを得ないだろう。消費者がどういうことに興味を持っていて、そこにターゲット広告を出したときの効果が正しく示せれば、もっと高い広告料金を得られるからだ。