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 東京都議会が審議を進めている「東京都青少年の健全な育成に関する条例」の改正案は、青少年の携帯電話におけるインターネット利用環境の整備を一つの柱としている。2010年3月30日に開催する東京都議会 本会議で改正案が採択されるかが決まる。この内容ついて、法律家やインターネット関連の業界団体、事業者などから反対の声が相次いでいる。弁護士であり、モバイルコンテンツ審査・運用監視機構(EMA)の事務局長を務める上沼紫野氏に、改正案の問題点を聞いた。

(聞き手は,松浦 龍夫=日経ニューメディア

「青少年インターネット環境整備法」でもフィルタリングについて規定があるが、改正案のフィルタリング規定のどの部分が問題なのか。

モバイルコンテンツ審査・運用監視機構(EMA)事務局長 弁護士 上沼紫野氏

上沼 青少年インターネット環境整備法はフィルタリングを必要としながらも、「閲覧の制限を行う情報を青少年の発達段階に応じてきめ細かく設定できること」「閲覧の制限を行う必要がない情報について閲覧の制限が行われることを少なくすること」に配慮すべきと定めている。これらは表現の自由に配慮しているためだ。

 一方の改正案では、「自己もしくは他人の尊厳を傷つけ、違法または有害な行為を行い、犯罪もしくは被害を誘発することを容易にする情報を閲覧する機会を最小限にとどめるものとなるように努めなければならない」としている。条例によっては法律で定める範囲を超える場合もあるが、ここでは表現の自由について触れたものであり、その扱いが法律と条例で異なってはいけない。その意味で改正案は法の趣旨を逸脱している。

条例案の基準を「自己もしくは他人の尊厳を傷つけ、違法または有害な行為を行い、犯罪もしくは被害を誘発することを容易にする情報」とする部分はどうか。

上沼 表現が非常にあいまいであり、拡大解釈が可能になっている。問題のない表現が有害と判断されて、表現の自由が制限される恐れがある。

都は規制内容について、携帯電話事業者やインターネット上のサービスを提供する事業者の自主規制を促すものであり、罰則規定もなく努力義務であるとしている。事業者への影響は大きいのか。

上沼 大きいだろう。大企業が条例に反する行為を進んで行おうとするとは思えない。努力義務を怠った事業者は企業名を公表するとしており、事実上は規制を強いる内容になっている。さらに罰則があればその正当性について争うことができるが、努力義務で強制ではないという立場を都が取る形にして、争えないようにしている。

 また事業者が違反していると認めた場合には、都は立ち入り調査や資料の提出を求めることができる。事業者は、青少年の通信内容の提出を求められる場合があると解釈できるが、通信の秘密に抵触する可能性がある。

条例案は廃案が妥当だと考えるのか。

上沼 そうだ。廃案になるべきだと考えている。仮に可決されるとしても、少なくとも言論や表現活動に対して、都や公権力による恣意的な関与が行われる余地がある表現は削除すべきである。多様な価値観を認めることよりも、社会秩序を守ることの方が重いというのは民主主義的にまずいと考えているからだ。

虎ノ門南法律事務所
弁護士 上沼 紫野氏
97年に弁護士登録し、02年から現職。主に知的財産権やIT&サイバー法務を取り扱う。モバイルコンテンツ審査・運用監視機構の事務局長も務める。