IFRSを任意適用する企業に対する支援策は。
数は多くないと思いますが、2010年3月期から数社が任意適用する見込みです。2010年度以降にはもっと多くの企業が任意適用するでしょう。
IFRSを適用しようとすると「どう処理すればよいのか」と迷う部分が必ず出てきます。こうした問題を解決するために、経団連(日本経済団体連合会)の中に任意適用の対応要員を中心としたタスクフォースを設置しています。
財務諸表を作成する企業側だけでなく、監査法人や金融庁もオブサーバーとして入り、意見調整しながら進めています。IFRSで財務諸表を作成したのに、監査側から「こんな処理ではダメ」と言われたら困るので、監査側のメンバーも入っています。
こうした動きと並行して、ASBJ(企業会計基準委員会)にIFRS対応実務グループを設置しています。経団連のタスクフォースでの議論を通じても共通の理解が得られない点について、IFRS対応実務グループがIASBの理事やスタッフに対して個別に照会することになっています。
任意適用企業の経験が参考になる
任意適用の会社はすでに、米国の証券取引所に上場していたり、米国会計基準を採用しているケースが多い。その多くは、個別の財務諸表は日本の会計基準で作成しながら、連結財務諸表は米国会計基準に組み替える作業に慣れているはずです。
強制適用の可否の最終判断は2012年ですが、任意適用の企業の経験はその判断にも役立つでしょう。強制適用時にIFRSに移行する企業は任意適用の企業の経験を参考にできるはずです。
3月5日には非上場会社の会計基準に関する懇談会を新たに設置した。
中間報告の後、非上場企業にもIFRSが適用されるのではないかという心配の声が上がりました。そこでIFRS対応会議は、非上場会社の会計基準に関する懇談会の設置を提言しました。懇談会は非上場会社に対して、どのような会計基準を適用すべきかを検討します。
IFRSは投資家サイドに重点を置いています。このため「非上場会社には投資家もいないのに、なぜIFRSの影響を受けなければいけないのか」という声が多く出ていました。
懇談会では中小企業の声も聞きながら、余分な負担や工数をかけないような方向性について検討していく予定です。非上場会社を3から4のカテゴリーに区分して、どういった会計基準を適用すればよいのかといった交通整理をしていくことを予定しています。
IASBに対する意見発信はどのように進めていくのか。

日本として意見を発信していくことも重要ですが、アジアやオセアニア諸国と連携しつつ、アジア・オセアニアとして意見発信していくことが大切だと考えています。
日本とアジア諸国とは、文化や商習慣で近いものがあります。アジア・オセアニア地域で連携して、「こうした点についてIFRSで取り上げてほしい、基準設定をしてほしい」といった意見を集約していきたい。その際に、日本がリーダーシップをとりながら進めていければと考えています。
日本の主張をすべて通すのは難しいかもしれません。財務的、人的な資源を提供する一方で、日本としてプライオリティーの高い課題については十分説明を尽くし、認めてもらえるよう積極的に働きかけていきたいと思います。
サテライトオフィスを誘致していく
IASBは今、会計基準の設定の透明性を確保するためにサテライトオフィスを世界に設置していく意向を持っています。各国の意見をくみ取ったり、IFRSの内容を周知させたり、解釈を統一していく必要があるからです。
サテライトオフィスの設置時期は未定ですが、日本は率先して手を上げて、これを誘致していこうと考えています。アジアには色々な国がありますが、日本にはサテライトオフィスを誘致するだけのベースがあります。現在、「これくらいの場所が用意できる」といった具体的な話を関係者に対して持ちかけているところです。
IASBに意見発信するに当たり、人材の育成も大きな課題では。
国際的に活躍できる会計人材の不足は大きな問題です。少々英語ができるという程度では不十分で、会計を分かっている上で英語で丁々発止、IASBや IFRS財団、他の国と議論できて、自国の意見を誤解なく伝えられる人材が必要です。そうでないと真の意味で国際対応をするのは困難です。
日本は会計理論や会計の知識に関しては、世界のなかでも優れています。書類を作れば、中身は崇高かつ精緻でレベルが高い。けれどその内容を英語で伝えていかなければなりません。
こうした人材を政官民が一体となって養成していく必要があります。IFRSに限らず、国際的な人材の育成は日本にとって非常に重要な課題になっています。
(コマツ相談役・特別顧問)
萩原 敏孝(はぎわら・としたか)氏
(聞き手は、田中 淳)