米広告大手の日本法人として設立されたオグルヴィ・アンド・メイザー・ジャパンは、多くの日本の有力企業をクライアントに持つ。日本では、代表取締役社長のワータイム氏の共著書「DigiMarketing」が翻訳され、このほど「次世代メディアマーケティング」として出版された。グローバルにマーケティングの変化を分析してきたワータイム氏に、現状認識と今後の見通しを聞いた。
DigiMarketingとは、どのような概念か。
それは、マーケティングのやり方をデジタルにシフトしていくということ。多くの企業がデジタルマーケティングをWebサイト、もしくはネットのマーケティングと理解しているが、私が本の中で書いているのはもっと多くのチャネルがデジタル化されるということだ。今後は「iPad」などの新しいネット接続デバイスも考えないといけない。そうしてデジタルチャネルの支配力が高まり、マーケティングの一角ではなく、主流になっていくということだ。
変化するのは、マーケティングのすべてのプロセスになる。単にメディアを変えるのではなく、多くの企業が基本的なマーケティングのやり方、ブランドの定義、消費者とのコミュニケーションのやり方までを変える。単にデジタルチャネルを選ぶだけでなく、既成概念を変えないといけないということだ。
その一例は、マーケティングで使う基本用語を変えるということ。よくターゲットという言葉を使うが、それは広告を使って到達させるだけという古い考え方だ。ターゲットは狩猟で獲物を獲るための言葉。そうではなくて消費者と友人になり、膝を交えて話し合う関係にならないといけない。
具体的には、どのように変わっていくのか。
よく知られている例は、ブロックのレゴの話だ。従来の考えでは、消費者に調査して学んだことをマーケティングチームに伝え、新製品の開発チームらと共に製品を作る。それを市場テストして、広告を作っていくということをやっていた。レゴはこのプロセスにおいて、ロイヤルティの高い消費者の参加を募った。そして消費者と一緒にチームとなって商品の在り方を考え、消費者のために製品を開発した。そうして売り上げが見込める良い製品が出てくる。
こうしたカスタマーコントリビューションが重要だ。デジタルによって、消費者が投票したり、反応したり、アイデアを出したりしてかかわれるようになった。消費者は商品を買うだけでなく、企業のサポーター、貢献者になってくれる。ブランドが好きな消費者は、アイデアを出す、友達に伝える、ビデオを作る、ブログを書くなど様々な面で貢献してくれる。消費者が製品を買えば企業は存続できるが、消費者の能力は買うだけではなくなった。それをマーケッターが認識し始めた。
注目は、やはりソーシャルメディアか。
その1つになる。ソーシャルメディアは急成長している。この分野は継続的に変化し、成長しているので、今入らないといけない。SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の中でも新しいものが出ている。SNSではビデオ対応コンテンツが増え、他サイトとの相互接続性が高まり、アプリケーションも増えている。マーケッターは、そうしたソーシャルメディアに参加し、体験しないといけない。
ただ、マーケッターは今やっていることをやめて、全部を変える必要はない。テストマーケティングをして、うまくいっていることをやりながら変えればいい。テストして学ぶことが賢いマーケッター、良い予算の使い方となる。