「仮想化からクラウドへ」。米ヴイエムウェアのポール・マリッツ社長兼CEOはロードマップを明示した。今年、主力製品である「vSphere」をアップグレードし、クラウド構築向け機能を加える考えだ。仮想化とクラウドの両分野でマイクロソフトが強敵とみる。製品機能では負けないと、ライバル心を燃やす。
クラウドコンピューティングが話題を集めています。ヴイエムウェアはこの分野で、どのように他社と差異化していくのでしょう?
ヴイエムウェアと他社との大きな違いは、製品の利用実績です。我々の製品は世界の主要企業ですでに採用されています。多くの企業がサーバー仮想化製品「VMware vSphere」を使い、オペレーションの自動化などを手掛けている。クラウドの実現はそうした取り組みの先にあるものです。
クラウドについて大切なポイントは、すべてがパブリッククラウドに行くわけではないし、その反対に全部がプライベートクラウドになるわけでもないということです。両者をうまく連携させる「ハイブリッドクラウド」なら、どちらのメリットも生かせます。
すでに我々の製品を使ってシステム基盤を築いている顧客は、基盤の能力を拡大していくことでパブリックとプライベート、どちらのクラウドを作ることも可能です。もちろん、パブリッククラウドとして広く提供されているリソースを使うこともできます。
我々は、プライベートクラウド構築に向かって製品を拡充してきました。2001年の「VMware ESX」でサーバー仮想化を本格化し、03年の「VMware Infrastructure」ではリソースプールを可能にしました。昨年出したvSphereでデータセンターの自動化に踏み込み、今年はクラウド向けの機能を追加する計画です。
クラウドに対して懐疑的な意見も少なくない。

我々がクラウドについて顧客に最初に説明するのは、「クラウドはコンピューティングすることへのアプローチである」ということです。このことを繰り返し伝えようとしてきました。
クラウドで注目すべきは、どこにコンピュータを置くかではなく、利用者に対してITサービスをどのように届けるかという点です。人々がクラウドについて論じているとき、それは単にパブリッククラウドのことを話したいのではなく、どのようにコンピューティングするかに興味があるのです。
クラウドベースのアプローチに変えることで、エンドユーザーは多くの利益が得られます。彼らが望むサービスをこれまで以上のスピードで手に入れられるようになるのです。そのサービスが、企業内で用意されているものか、企業外で提供されているものかは問いません。
ライバルはマイクロソフト
そうしたクラウド分野で、最も手ごわいライバル企業はどこですか
誰もがクラウド分野でチャンスをつかもうとチャレンジしていますが、マイクロソフトがたぶん我々に最も近い競争相手でしょう。マイクロソフトを除けば、我々が進んでいる道を誰も歩んではいないからです。そして新興企業はオープンソースの世界から出てくるとみています。
マイクロソフトの強みの一つは、投資のために潤沢な資金があることです。もちろん、実績も十分です。非常に大きなビジネスを展開しているし、多くの顧客との取引もある。だからこそ、我々は製品機能でマイクロソフトに勝たなければならない。お金では彼らに太刀打ちできませんから。
日本ではバージョン2が出てからHyper-Vの注目度が高まっています。仮想化の分野でもライバルはマイクロソフトではないでしょうか。
マイクロソフトが仮想化でヴイエムウェアの背中を追いかけてきていることは間違いありません。しかし我々は機能面でマイクロソフトの先を歩いているし、その有利な立場をこれからも保っていくつもりです。
今後は、クラウドが数々の変化を世界にもたらすでしょう。そうした変化への取り組みについても私たちにアドバンテージがあると考えています。ヴイエムウェアは仮想化の分野におけるマーケットリーダーであり、これからもそうあり続けます。
そうは言っても、中小企業分野ではマイクロソフトに分があるのでは。
確かに中小企業向けのマーケットでは、Hyper-Vとの競合が激しい。ただ、そうしたマーケットを狙って投入したvSphereのエッセンシャル版は十分に成功しています。中小企業向けビジネスで面白いと思うのは、大企業よりも先にクラウドの利益を享受し始めるだろうということです。そうしたトレンドをうまく利用していくことも大切になります。
仮想化からクラウドやエンタープライズ分野に進出するには、ヴイエムウェアの体制や製品サポートを変える必要があると感じます。
変化が必要という指摘には同意するし、実際、我々は変化を始めています。取り組みの一例として、日本で非常に重要な投資をしていることが挙げられます。まず、ここ1年で日本のヴイエムウェアの社員数を2倍に増やし、陣容を整えました。また、日本のシステムインテグレータとより深いパートナーシップを築こうと試みています。一連の施策は、日本の顧客に対してより高いレベルのサポートを提供することが目的です。
ポール・マリッツ 氏
(聞き手は、森山 徹=日経コンピュータ)