独自開発したデータウエアハウス(DWH)とレポーティングツールをセットにした製品「Dr.SUM EA」を開発・販売するウイングアークテクノロジーズ。2010年3月に新インタフェース「Dr.Sum EA MotionBoard」を発表するなど、近年はインタフェースの強化を続けている。同社の内野弘幸社長は「BI(ビジネスインテリジェンス)ツールの活用に失敗し不信感を持ってしまった企業は多いが、当社製品は現場のニーズに応えられる」と話す。(聞き手は吉田 洋平=日経コンピュータ)

企業のデータ活用の現状についてどう感じているか。

写真●ウイングアークテクノロジーズ 代表取締役社長 内野弘幸氏
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 経営者の意識という点では、まだまだ途上だなと感じることが多い半面、現場の意識は非常に高い。ただ、その意識に応えられるだけのデータ活用基盤が整っている企業はまだまだ少ない。

 トップダウンで経営することが多い欧米企業の場合、分析を専門とする部署がデータをまとめ、経営層に渡して判断を仰ぐ。経営者はその数字を根拠に状況を判断する。

 一方、日本では、経営者はデータを渡されたとしても、その内容が示している事実より、勘や経験を重視して判断するケースがほとんどだ。

 だが、日本企業であっても現場の担当者はデータを業務に積極的に活用している。以前から、営業の社員が帳票のデータをエクセルに入力し、独自に集計して使うというケースはよくあるし、多くの企業は現在でも同じような状況だ。帳票に欲しいデータがない場合、情報システム部門にCSVでデータをくれと依頼するのは日本の特徴だろう。

 ただ、この方法はデータを活用するまでに大変手間がかかる。情報システム部門も、利用部門から要請があるたびに対応していたのでは大変だ。データをもらう側である利用部門も、エクセルにデータを入力したり、集計をしたりするのは楽ではない。こういった前段階に気を取られてしまうので、本来最も重要なはずの分析に集中できないということも多々ある。

多くの企業がBIを導入した経験があるとよく言われる。BIの導入により、データの取得や集計の問題は解決できないのか。

 確かに多くの企業がBIに飛びついたが、満足の得られる結果は出せていない。BIを使ったデータの取得・集計方法は大きく2種類ある。一つが事前にデータを集計する手法で、もう一つが都度データを集計する方法だ。前者は、パフォーマンスは高いが分析する軸がガチガチに決まってしまい使いにくく、後者はいろいろな軸で分析できるが集計に時間がかかりすぎる。

 このため、「BIには期待したが全く期待はずれだった」と不信感を持った企業がたくさんあった。BIを導入したものの利用せず、情報システム部門から必要なデータをもらうというスタイルを続ける企業も依然として残っている。

 もう一つ、操作性の問題もあった。我々が企業にヒアリングしたところ、BIは高度な分析をする人にはいいが、現場担当者には操作が難しすぎるということだった。そうするとボタン一つで結果を出すようにするしかないが、それでは帳票からデータを集計するのと同じになってしまう。

パフォーマンス、操作性の問題をウイングアークの製品はどうやって解消しているのか。

 2001年に独自のデータベース製品である「Dr.SUM」を開発したことで、パフォーマンスの問題をクリアできた。当社は95年に帳票用ソフトベンダーとして事業を始めたが、これまで述べてきたように、当社製品で作った帳票を、現場の担当者がエクセルに手入力しているということが分かった。もちろん帳票に記載した情報で満足している利用者もいたが、そうでない人も数多くいたということだ。

 帳票のデータをエクセルで集計する必要のないよう、データベースから直接取りだそうとしてみたところ、パフォーマンスを高めるためにインデックスを大量に作るなどチューニングが必要になった。この場合、想定した通りのデータを利用者が取得・集計すればパフォーマンスが出るが、そうでないデータを見たいといった場合には一気にパフォーマンスが低下する。

 そこで、本当に利用者のニーズに応えるには、分析の軸が変わっても高いパフォーマンスが出せるデータベースが必要だということになった。「データベースを1から作るのか」という迷いはあったが、偶然その分野に強い技術者が社内にいたこともあり、Dr.SUMを開発した。

 Dr.SUMは全く独自のデータベースで、レポーティングする情報を柔軟に変えることができる。そのため当初は「多次元レポートツール」と呼んでおり、「BIと呼ぶな」とも盛んに言っていた。

 その当時はBIに対し「ツール自体がいろいろなことを勝手に分析してくる」というイメージがあった。我々の製品は、あくまでデータをいろいろな角度で素早く見ることに主眼を置いたソフトだったため、「勘違いされても困るからBIと呼ばないほうがいい」と言っていたわけだ。

近年強化している機能はあるか。

 情報の活用を進めるためには、情報から気付きを得られるようなインタフェースが必要だと考え、昨年からチャートを使った分析の機能を強化し続けている。BIツールで情報を見るときに、シートにあるデータをドリルダウンして明細データまでたどれるのと同じように、チャートを自由に深掘りできるようにしようというのがコンセプトだ。

 数字に強い人であれば、数字の羅列を見ただけである程度の傾向をつかむことができるが、そういう人はほんの一握りだ。チャートで視覚的に傾向を把握するだけで、数字を見るだけでは気付けないことに気付けるようになる。

 チャートの機能を強化したところ、ユーザーから「チャートを含めたいろいろな情報を一つのポータルで表示したい」という声をたくさんもらった。それに応え、「ホワイトボードの上に必要な情報を全部書き出す」というイメージのインタフェース製品「Dr.Sum EA MotionBoard」を2010年3月に発売した(関連記事)。

 今後はスマートフォンでもデータを有効に活用できるように、スマートフォン向けのインタフェースを開発する予定だ。