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[前編]イノベーションを提案する 社会インフラとITの連携強化

日立製作所は、2010年3月期連結決算で最終赤字(1069億円の赤字)が大幅に縮小し、復活への一歩を踏み出した。ただ、これまで安定収益をもたらしてきた情報通信事業は減収減益と振るわない。社会インフラ事業と情報通信事業を融合させたビジネスの創出を目指す中西宏明社長に、“日立のIT”の将来を聞いた。

前期に「日立復活」の足がかりができたと思いますが、それを踏まえて、これからの具体的施策をお聞かせください。日立を「世界有数の社会イノベーション企業にする」ために、特に情報通信事業の役割はどうなりますか。

 情報通信関連で言えば、ここ数年、広い意味でのプロジェクトマネジメントの充実に力を入れてきました。これはネガティブな意味とポジティブな意味があります。ネガティブな意味とは、「動かないコンピュータ」に登場するような案件を撲滅するということです。これはうまくいきました。

 一方、ポジティブな意味とは、提案力の強化ということです。きちんとした提案ができて、しかもその価値をお客様に納得していただけるような形で提供できる力を付けてきたという意味です。

 ただ、グローバルにやっていくとなると、こうした取り組みだけで注文が取れるわけではありません。そこでコンサルティングから入ろうということで、まず米国、次に欧州で取り組みを強化してきました。そして今は中国です。

中西 宏明(なかにし・ひろあき)氏
写真:陶山 勉

 コンサル面では中国と欧州、米国に日本を加えた4拠点の連携も具体化できてきたので、プロジェクト力をグローバルでドッキングすると、美しい形になります。もちろん本格的にグローバル展開していくには、日本人が出掛けるだけでは駄目ですし、海外で人材を集めるのも簡単ではありません。企業買収も考えていかなければいけないでしょう。

 これからは、ハードウエアをきちんと“サービス”していくという切り口も要ります。日立にはストレージがあるので、この事業をもっと膨らませようと思っています。実は、HDS(米・日立データシステムズ)の事業ではストレージ自体の比率は下がっています。増えているのはサービスとか、ストレージ・マネジメント・ソリューションです。単に記憶装置を売るだけではなく、お客様の立場でデータをマネージして差し上げるというところまで含まれます。

 次のターゲットを考えると、鉄道などのインフラ会社への提案が増えてくるはずです。新興国などでのビジネスの場合、社会インフラ事業の組み立て方も含め提案していかなければなりません。これをIT事業と言うかどうかですが、当然コンサルが必要であり、データセンターサービスも提案に含まれるでしょう。そうした全体的な提案を可能にする一番のリソースは、培ってきたコンサルやSIの力だと考えています。

顧客がお金を稼げる提案を

それが、ずっとおっしゃっていたITと社会インフラ事業の連携ですね。ただ、容易なことではないと思いますが。

 一番のボトルネックなのは、SI部隊のマインドセットです。お客様の御用聞きから一歩踏み出せるようにならないといけません。

 グローバルで展開するための人材ベースでも、まだまだ大きな課題があります。中国などではローカルな人材のベースができてきたと思っていますが、世界中どこでもやれるのかと言ったら難しいですよ。ですから、最初に申し上げたようなコンサル+SIという形で進めていきます。企業買収も当然あり得るわけです。

そのM&Aの話ですが、どのような企業をターゲットとして考えていますか。

 いわゆるピュアなIT企業ではありません。特定のスキルを持ったところですね。我々が狙ったセグメントをきちんとやれる能力のある企業を考えています。今は、ビッグネームが全部支配する時代じゃないですよ。専門の分野や地域で独特の力を持っている企業にポテンシャルを感じます。

IT産業がサービス化の方向へ進んでいます。社会インフラ事業との連携を強化するなかで、情報通信事業自体の構造改革にはどのように取り組むのでしょうか。

 今までと同じやり方でSIをやっていたら、市場は伸びない。人口も減るし、競合は増えるから、価格は下がり、簡単に構造不況業種になってしまう。私は社内でそう言っています。だからといって、単純にグローバルというだけでは、駄目なんです。

 客筋のとらえ方や提案内容自体をもっと進化させることが最大の条件です。今までのようにCPUをたくさん食べるアプリケーションを見つけるという発想ではなく、お客様がきちんとお金を稼げるようなモデルを提案できるようにしなければいけません。

 もっとも、重電事業についても同じことが言えます。単品での原価低減と大容量化と高機能化だけでは駄目で、例えば発電と水供給を組み合わせて、どんな提案をしたらお客様のメリットになるのか。そんなふうに発想を膨らませていかないといけない。昔のようにそれぞれの工場を守ろうという発想でいたら勝ち目はないよと、それこそ年中言っています。

日立製作所 代表執行役 執行役社
中西 宏明(なかにし・ひろあき)氏
1970年3月、東京大学工学部卒業。同年4月に日立製作所に入社。79年7月、米スタンフォード大学院コンピュータエンジニアリング学修士課程修了。2000年8月、情報・通信グループ統括本部副本部長。03年4月に国際事業部門長兼欧州総代表となり同年6月に執行役常務。05年6月、執行役専務/北米総代表兼日立グローバルストレージテクノロジーズ取締役会長兼CEO。09年4月に代表執行役 執行役副社長に就任、電力事業や電機事業などを担当。今年4月から現職。1946年3月生まれの64歳。

(聞き手は、木村 岳史=日経コンピュータ)