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[後編]モバイル通信の“上り”の充実を、最終目標は世界中での情報交換

サービスの強化に向けた取り組みはあるか。

 まず、ウェザーリポーター同士で対話できる仕組みを提供しようとしている。分かりやすい例を挙げれば、リポーター同士で写真撮影や天気の読み方(そらよみ)のコツを教え合える。ほかのリポーターが投稿した情報や写真を見て、どうしたらうまくできるのか、と感じるリポーターは多い。

 会員同士のコミュニケーションもさらに活性化させたい。天気という、テーマになる話題が決まっているから、もともと情報交換はしやすい。ただ、質問に答える会員をもっと増やしたい。そこで、回答をもらった利用者がボタンをクリックするだけで迷うことなくお礼を伝えられる「Thanks Point(サンクスポイント)」などの仕組み作りに取り組んでいる。

 携帯電話以外の端末のユーザーから情報を収集することも考えている。その一つがデジタル放送。テレビ番組の中で視聴者に天気情報の提供を求め、データ放送で質問を出し、リモコンを使って画面上でそれに回答してもらう。携帯電話の利用者からのものほど多様な内容ではないが、より多くの情報を集められる。我々はこれを「トランスメディア」と呼んでいる。

ほかに、どんな部分にネットワークを活用しているか。

 当然だが、気象情報を収集する部分には、ネットワークが欠かせない。

 例えば2009年の夏ころに始めたのが、「WITHレーダー」と呼ぶ設備からの情報収集だ。ゲリラ雷雨の予兆をとらえるためのもので、航空機の先端に取り付けるレーダーを気象レーダーに応用した。120度くらいの幅の方向だけを6秒おきにスキャンして、その情報をブロードバンド回線などを介して絶えず収集する。現在、大学や研究機関の協力を得て、全国の30カ所くらいにこのレーダーを設置済みだ。

韓国LGテレコムなど海外の通信事業者とも提携している。どのような展開を考えているのか。

西 祐一郎(にし・ゆういちろう) 氏
写真:新関 雅士

 LGテレコムについては、同社が展開している花粉計や地震計といったデバイスと、ネットワークインフラを使って、携帯電話向けの情報配信を始めた。実は韓国では、SKテレコム、KTと既に同様の取り組みを始めていた。LGテレコムとのパートナーシップで韓国の大手通信事業者は一通り押さえたことになる。今のところ情報配信だけだが、今後は日本と同じウェザーリポーター制度を導入して情報を集め、解析、予報まで手掛けるつもりだ。

 今興味を持っているのは中国だ。一番の理由は市場性が高いことだが、天気の変化が日本に影響してくるからという理由もある。将来的には全世界の天気情報を配信し、天気に関するコミュニケーション環境を提供したいと思っている。

通信サービスが、もっとこうなったらいいという希望はあるか。

 いわゆる「ユーザーエクスペリエンス」を考えると、モバイルのデータ通信速度、特に上り方向の速度をもっと高めてほしい。例えば通信速度、料金の両方の意味で、無線LANサービスがもっと広がるといいと思っている。

 今後は、スマートフォンの普及に伴って、今までよりもさらにリッチな表現が可能になる。これは難しいことを簡単に、簡単なことを面白く、面白いことを深くするという可能性を秘めている。同時に、今後はウェザーリポーターなどによるパーソナル情報の発信も増えていくはず。それをもっと便利に使えるようにしたい。

 もう一つ、パケット定額サービスが、もっと広範囲に広がるといいと思っている。日本国内では既にパケット定額サービスがあるが、それでも、よく知らずに契約していないユーザーがいる。情報を投稿してもらうために、通信料金のハードルを下げたい。そうしたサービスが充実していない海外では、特に改善に期待している。

ウェザーニューズ システム開発本部長
西 祐一郎(にし・ゆういちろう) 氏
1966年生まれ。北海道出身。1990年、小樽商科大学卒業後、CSKに入社。1992年11月、ウェザーニューズ入社。1999年8月、同社取締役、BCDEカンパニープレジデント。2000年8月、常務取締役。2005年8月に退任し、システム開発本部長に就任(現職)。2006年12月からウィズステーション取締役も兼任。趣味はプログラミング、サイクリング。好きな言葉は「精進」。

(聞き手は,河井 保博=日経コミュニケーション編集長,取材日:2010年4月27日)