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写真1 元素図鑑のホーム画面
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多機能携帯端末「iPad」用の教育アプリとして人気の「元素図鑑:The Elements in Japanese」(写真1)。元素にまつわる豊富な写真や解説文だけでなく、一つの写真を複数のアングルから見ることができたり、検索と連動したりといった電子版ならではの工夫が盛り込まれている。この元素図鑑の著者であるWolfram Research、Co-FounderのTheodore W. Gray氏に制作などの話を聞いた。(聞き手は大谷 晃司=日経NETWORK)

Wolfram Research Co-Founder Theodore W. Gray氏
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なぜiPad版を出そうと思ったのか。

 2009年9月に紙の書籍として「元素図鑑」(英語名は「The Elements」)を出版した(編集部注:日本では創元社から発売予定)。そこに掲載した写真は、2003年から撮りためていたものだ。ただ、紙の書籍では一つの写真で一つのアングルしか見せられない。実際の撮影では様々なアングルで撮影していた。

 そもそもは紙の書籍にするためだけに写真を撮影していたのではなく、Webサイトやビデオインスタレーションなど多くの媒体で使うであろうことを想定していた。本を作るという発想は後から出てきたものだ。紙の本は一つの特別な例だ。素材を集めた結果、それが本になり、そしてiPad版になった。

 書籍を出したばかりのころ、複数のアングルで物を見せられないことに対して不満を感じていた。そんなときiPadが4月に出ることがアナウンスされた。これなら撮影した写真を全部見せられると考え、iPadが4月に発売されるまでの約60日間でiPad版元素図鑑を作り上げた。

 現在、iPad版の元素図鑑は日本語版のほか、英語(US)版、英語(UK)版、フランス語版、ドイツ語版などがある。どのバージョンでも写真とレイアウトはまったく同じ。テキストだけがその国の言語に変えられている。日本では書籍はまだ出ていないが、翻訳は先行して終わっていた。そこでiPadの日本での発売に合わせて日本語版アプリを出した。

Wolfram Researchは「Wolfram|Alpha」(編集部注:ユーザーが入力した自然言語から、回答を検索して提示する計算知識エンジン)などの技術も持っているが、元素図鑑にどう生かされているのか。

写真2 計算知識エンジンWolfram|Alphaと連携
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 iPad版元素図鑑では、iPadがインターネットにつながっていればWolfram|Alphaを使って関連する情報を引き出すことができる。たとえば「金」のページでWolfram|Alphaのロゴにタッチすると、現時点での金の市場価格などがわかる(写真2)。

 これは紙の本にはできないことだ。それだけでなく、例えば「融点」という用語をタッチすれば、溶けた際の色などもブラウザ上に表示される。つまりネットワークにつながっていれば、こうした情報をすべてアプリに含める必要がないし、リアルタイムに変化する情報とも連動できる。

 ちなみにここで使っているブラウザは汎用のものなので、例えば検索窓に「Tokyo Weather」と入力すれば、元素図鑑にはまったく関係のない東京の天気の情報も得られる。

写真3 ダブルタップすると3D用の表示になる
3D眼鏡を使うことで各写真を立体視できる
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 紙との違いで言えば、各写真は指でフリックして回転させ別アングルで見ることができる。それだけではなく、ダブルタップをすると3Dで写真の物体を見ることができるようにもしている(写真3)。3Dで見るには3D眼鏡が必要だ。必要なら、アプリから購入サイトに接続して3D眼鏡を買ってもらうことになる。

iPad版の制作方法を教えてほしい。

 まず、電子版でも本と同様に話の流れは重要だ。書かれたストーリーを読んでいって、読んだ人が何かを得る、知識を得る、といったところは本と同じ。始まりがあって終わりがあるというステップは電子版にも含まれている。ファンダメンタルな部分は変わらないと思う。

 ただし本の制限、例えば限られたスペースだったり、静的にしか表現できなかったりするところは異なる。アプリの場合、本のような流れはありつつも、写真をさまざまな角度から見ることができたり、自分でコントロールできたりする部分がたくさんある。

 こうした点も含め、制作は紙の本とはまったく違う作業になる。本を作る際は、例えばInDesignを使って作業フローを作って本を制作する。だが、こういうインタラクティブなアプリを作るための、確立されたツールというものは存在しない。

 iPadの発表があって元素図鑑のアプリを作ろうと決めた時、一番最初の仕事は自分たち自身でオーサリングツールを作ってしまうことだった。そのツールは、(Wolfram Researchの計算、モデリング、シミュレーションなどに使われるソフトウエア環境である)Mathematicaで作成した。元素図鑑で使っている画像や動画などは、Mathematicaで作ったツールを使ってレイアウトし、制作している。

 元素図鑑には、500以上の写真などを使っている。これを60日間で、数人で作り上げることができたのは、Mathematicaを使えたからだ。技術開発は私を含めて3人。Mathematicaを使ったツールのコードは私が書いた。デザイナーが各ページのレイアウトを決めて各国で各国語に翻訳した。

iPad用のオーサリングツールを別途販売する予定は。

 今回のツールは、元素図鑑のために特別に作ったものだ。このツールを少し変えて、他の編集プロジェクトで活用することはあるだろうが、ツール自体の販売は考えてない。Mathematicaは誰でも購入できるソフトだ。これをうまく使える人であれば、こうした新しい電子書籍を作ることができて、ほかの会社が出す電子書籍とも差別化できるだろう。