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 Web API業界の黒船が登場した。ユーザーの「記憶」のためのプラットフォームを目指す「Evernote」である。

 Evernoteは、ノート作成、Webページや画像の保存、PDFファイル管理、ボイスメモ録音などユーザーの様々な生活シーンを網羅して記録するクラウドサービスである。2008年6月に米国でリリースし、2010年3月に日本語版をローンチした。現在のユーザー数は450万。地域別の構成は北米が57%、次いで日本の18%となる。

 Evernoteは、すべてのAPIをサードパーティに向けてWeb上に公開し、自社の公式アプリケーションも、公開されているAPIと全く同じものを利用して開発している。API公開を軸としたオープン化はWebサービスにとどまらない。スキャナー等のハードウエア製品への組み込みも進んでいる。Evernoteの担当者に、公開されているAPIや収益モデルについて聞いた。

(聞き手は佐藤有美=フリーライター)
今回のオープンWeb推進企業
写真1●
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●企業名:米Evernote
●Web APIを公開しているサイト:Evernote API Overview
●Web APIで提供している機能:User, Accounting, Notebook, Note, Resource, Tag, SavedSearch
●Web APIの提供形態:Apache Thrift バージョン 0.4.0 ベース
●Web APIの公開 開始時期:2008年10月

Evernoteのサービスの特徴について聞かせてください。

写真2●米EvernoteでDirector of Partner Integrationsを務めるSeth Hitchings氏
写真2●米EvernoteでDirector of Partner Integrationsを務めるSeth Hitchings氏
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Hitchings:Evernoteは、ユーザーの記憶のためのプラットフォームになることを目標に、2008年6月にリリースしました。記憶には様々な場面がありますから、家の中や屋外等のロケーションにとらわれず、その場面に応じた機能を提供しなければいけません。そのため、Windows、Mac、iPhone、Android等の各種クライアントでアプリケーションをサポートしています。

 Evernoteには、ノート作成、Webページや画像の保存、ボイスメモ録音等の機能があります。特徴的なのは、画像の中にある文字を自動検出する機能です。例えば、レストランで飲んだ「フランス・ボルドー産ワイン」のラベルを写真に撮って、Evernoteに保存しておくと、後日「フランス」「ボルドー」など写真に写ったキーワードを元に検索することができます。

Evernoteでは積極的にAPIを公開していますね。

Hitchings:2008年10月、私たち自身が開発に使用しているAPIをすべて、外部のデベロッパーに向けてWeb APIとして公開しました。「記憶する」という、様々なシーンを網羅するEvernoteのサービスの特性上、すべてのソリューションを私たちだけで提供するのは不可能です。そのため、サードパーティの方々と協力して、よりよいサービスをユーザーに提供したいと考えています。様々なアプリケーションや、EvernoteとTwitterを連携させるWebサービス等が、APIを使って開発されています。

 Evernote公式アプリケーションは、現在オープンにしているAPIと全く同じものをベースに開発しています。従ってサードパーティはこれらのAPIを使用すれば、公式アプリケーションと同等の機能を作成することができます。

 Web APIは、クラウドサービスであるEvernoteにアクセスする際に必要となるインタフェースです。私たちがクラウドサービスを展開する上で必然的に生まれたと言えます。元からあるAPIを公開してサービスをよりよくするのは、とても自然な流れだと思います。

 サードパーティがAPIを利用するには、弊社にリクエストをする必要があります。これまでに、2500以上のAPIキーを発行しました。現時点では約10%がアクティブです。日本からも毎日リクエストが届いています。今までに発行したAPIキーの約3分の1が、日本からのリクエストに答えたものです。最も人気のある10のアプリケーションのうち、ノート作成ツールの「FastEver」や名刺管理ツール「Business Card Manager」などは日本の開発者が作成したものです。

 API利用の特にユニークな事例は、スキャナー等のハードウエアへの組み込みです。キヤノンや富士通など日本の大手メーカーとパートナシップを結ぶことで、スキャンした書類のデータを簡単にEvernoteに取り込めるようになりました。

 NTT東日本とNTT西日本が提供するクラウド対応のデバイスサーバー「N-TRANSFER」は、他のデバイスからUSB接続でEvernoteに直接データを取り込めます。従来は、スキャナーにせよデジカメにせよ、PCを経由してデータを取り込む必要がありました。PCを使わずに直接クラウド上に取り込める点が画期的だと言えます。

Evernoteは、無償(フリー)と有償(プレミアム)を組み合わせた「フリーミアムサービス」を採用しています。収益モデルを教えてください。

写真3●VP, Japanese Operationsの中島 健氏
写真3●VP, Japanese Operationsの中島 健氏
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中島:私たちの1番の目標は、フリーのサービスをできるだけ多くの方々に使っていただくことです。最初からお金をいただきたいとは思っていません。長く使っていただければ、Evernoteのよさをわかっていただけると思うので、いつか有償のプレミアムユーザーにアップグレードしていただけるものと想定しています。

 通常のクラウドサービスでは、最初の1~2カ月で登録者が半数くらい減り、その後も減少が続くパターンがよく見られます。Evernoteの特定のユーザーグループをトラッキングしたところ、最初の2カ月で約半数に減った後、残った40~45%のユーザーはアクティブユーザーとしてずっと使い続けていることがわかりました。無償から有償へアップグレードするコンバージョンレートも、他のWebサービスでは最大3%でその後は横ばいなのですが、Evernoteでは時間が経つにつれて3%を超えていく点が非常にユニークです。

 使い続けてデータが蓄積されるほどEvernoteにあるデータ自体の価値が増していき、その付加された価値に対して、ユーザーが対価を払ってもよいという気持ちになるようです。時間の経過につれてコンバージョンレートが上がっていく現象は、Evernoteが単なるフリーミアムではなく、自分自身の体験との組み合わせた上でのフリーミアムである結果と言えます。

 また、私たちはよりよいサービスをユーザーに提供する足かせになるようなことは一切排除する方針です。例えば、EvernoteのAPIを使う際、サードパーティからお金をいただくことは一切考えていません。

 むしろ、サードパーティのサービスを経由して新しいユーザーを獲得できた場合、そのユーザーのトラッキング情報を弊社のサーバー側で保持することで、収益の一部をサードパーティに払い戻せるようにしています。例えば、キヤノンのサービスを経て登録されたユーザーであれば、将来そのユーザーがプレミアム会員にアップグレードした際、Evernoteが得た収益の一部をキヤノンにお返しするといった具合です。ユーザーもサードパーティも、みんながハッピーになるモデルです。

マッシュアップ開発コンテスト「MA6」にリーディングパートナーとして参加されていますが、今後どのような広がりを期待していますか?

Hitchings:現在パートナ企業からの問い合わせが非常に多いので、今の勢いで成長することが希望です。サードパーティの新しいアイデアで、ユーザーの利便性が高まることや、記憶に関するゲーム感覚のツールなど、さらにエキサイティングなアプリケーションが生まれることを期待しています。サードパーティの方々の成長とともに、Evernoteも成長していくことを望みます。


インタビュアーより
既存サービスを元にしたWeb APIを公開するのではなく、はじめにAPIありきで、自社の公式サービスもAPIによって構築されたという点が革新なアプローチと言える。Webサービスにとどまらず、様々なハードウエアへの展開も進み、オープン化の今後の広がりが期待される。