クラウドサービスの分野で先頭を走るベンチャー企業がある。Salesforce CRMやForce.comを使ったSI事業を手掛けるテラスカイだ。損害保険ジャパンや小田急電鉄などを顧客に持ち、セールスフォース・ドットコムの認定技術者の2割を抱える。しかし、社長の佐藤秀哉氏は「クラウドブームは3年」と予言する。その真意を聞いた。
クラウド関連事業が好調のようですね。
2011年2月期に売上高5億円を目指しています。実現できれば100%成長です。
Salesforceに軸足を置いてビジネスを展開していますが、Salesforceが本格的にブレークしたのは昨年です。そして、試験的に入れていた大手企業が本格導入するようになってきたのは、昨年暮れあたりからです。今の案件は、単純なCRMの導入という話もありますけれども、どちらかと言うと、作り込む仕事が多いですね。
現在だと、いくつか検討に値するプラットフォームがあるのですが、1年前だとSalesforceぐらいしかなかった。そのころの案件が今につながったという意味で、先行者利益があったわけです。
御社はSalesforceのSI専業を打ち出していますね。
私は、13年間IBMに在籍した後、セールスフォース・ドットコム日本法人の立ち上げの際に、営業責任者を務めました。約4年でセールスフォースも卒業したのですが、クラウドに大きな可能性を感じ、この会社を設立しました。
今のところ売り上げの95%はSalesforceのビジネスですが、今後もずっと専業でやるつもりはありません。クラウドインテグレータとして、新しいSIerのモデルを探っていきたいと思っています。今ではアマゾンのEC2やS3、マイクロソフトのWindows Azureも研究しています。
クラウド全般に言えることなのですが、多数のユーザーで使うことから、いろいろな制約があります。Salesforceの場合、「ガバナ制限」という開発上での制限事項があります。例えば、プログラムのステップ数の制限などです。
こういう制限事項はドキュメントに書かれているわけではなくて、こういう作り方をしたらどういうメッセージが返ってくるかといったことを、ノウハウとして積み上げる必要があります。机上で勉強しただけでは駄目で、複数のプロジェクトを回して、初めて一人前の技術者になれるのです。
SIはクラウド連携に活路
ユーザー企業がSIを依頼するシステムには、どういったものが多いのでしょうか。
もちろんSalesforceのCRM周りの作り込みは今も多いです。もう一つ最近増えてきているのは、「クラサバ・ツー・クラウド」と呼んでいるのですが、今までクライアント/サーバーで構築していたシステムをPaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)のForce.com上に移行しようというものです。
クラサバには、集計したり一覧表示したりといったシステムがまだ数多く残っています。こういうアプリケーションはまさにクラウドにぴったりです。クラウドに移行すれば、サーバーを撤去できるし、運用の手間がいらなくなる。セキュリティやコンプライアンス面で問題のあるExcelのマクロの配布なども、クラウドになった瞬間に不要になります。
そうしたPaaSが勃興してくるなかで、SIビジネスはこれからどうなるとお考えですか。

まず、今のようなクラウドブームは2~3年で終えんするでしょう。その後も市場は伸びますが、伸び率が鈍化するフェーズに入ると思います。「次はグリッドだ」みたいなことを言っている人もいますが、そうじゃない。私は二つの方向性があると思っています。
まずは、クラウド上に販売管理や会計といったアプリケーションパッケージがどんどん載ってくると思います。大手ITベンダーは今、自社製品を自らのデータセンターでクラウドとして提供し、お客様を囲い込もうとしています。そうした動きが勝るのか、それとも本格的なクラウド上のアプリケーションパッケージがはやるのか。私は後者だと思っていますが、その戦いが始まるでしょう。
もう一つの方向性は、クラウドインテグレーションです。AzureやForce.com、EC2上で様々なアプリケーションを作ると、次は「どうやってつなげるか」という話に絶対なる。クラウドインテグレーション市場は3年後ぐらいに立ち上がってくると思います。
要するに、単純なSIは3年で終えんを迎えるということです。クラウド上で何か作るというだけの技術者が食える時代、つまり今のクラウドブームはあと3年ぐらいだろうということです。
そうしたなか、私たちはクラウドインテグレーションに生きる道を探っていこうと考えています。連携ツールも持っていますから、そのノウハウやスキルで生き残っていける会社になっていきたい。
さらに、日本企業はクラウド上のパッケージでもカスタマイズして導入するはずです。カスタマイズのための開発ツールの市場もできますから、そちらでも頑張っていきたいと考えています。
佐藤 秀哉(さとう・ひでや)氏
(聞き手は、中田 敦=日経コンピュータ)