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 日本でも携帯電話向けの周波数を対象に、電波オークションを実施する機運が高まっている。2010年12月14日に開催されたグローバル時代におけるICT政策に関するタスクフォース「政策決定プラットフォーム」の第4回会合で、平岡秀夫総務副大臣が「4G(第4世代移動体通信)向けの周波数割り当てについて、周波数の利用権を競売にかける電波オークションを実施する」という方針を掲げたためである。日本では実施実績がないため、「金額が高騰しないのか」「周波数の利用権利を地域で分割するのか」など様々な疑問が湧いてくる。そこで経済学者であり、海外での電波オークションに詳しい大阪大学名誉教授の鬼木甫氏に疑問をぶつけた。

(聞き手は松浦 龍夫=日経ニューメディア

写真●大阪大学名誉教授の鬼木甫氏
写真●大阪大学名誉教授の鬼木甫氏

そもそも電波オークションは必要なのか。必要ならばその理由は何なのか。

 必要だと考える。理由として国庫収入の増加を挙げる人が多いが、私は少し意見が違う。定期的に新規参入の機会が生まれ、事業者間の競争が発生することが必要だと考えているからだ。例えば街に一つしかないコンビニだと、何もしなくても顧客が来る。実際はコンビニ業界は競争が激しく、同じ街にいくつもコンビニができる。その結果サービス競争が起こり、これまでなかった利用者利便が生まれている。トイレを設置して清潔に保ち、使ってもらうというのは典型的な例だろう。

電波オークションを導入すると、落札金額が高騰し、事業者が疲弊して設備投資や新サービスの開発に遅れが出る、事業継続が難しくなるといった意見がある。

 電波オークションは美術品のオークションとは違う。電波オークションの目的は、新規参入の機会を作ることだ。美術品のオークションはいくら金額が高騰しても落札者が納得すれば問題ないが、電波オークションで同じことが起こると新規参入の機会を奪ってしまう恐れがある。そのため制度導入においては、落札金額が高騰しすぎないような配慮をすべきだ。それを考えるのがオークション制度の設計者の義務だろう。

配慮したオークション設計の例を教えてほしい。

 例えば、落札金額の高騰により事業継続が困難になる場合を想定して、落札した周波数帯の一部や全部を別の事業者に貸したり売ったりできるようにして、出口を作っておく方法がある。また、資金が豊富な企業が高い金額で落札して買い占めるという状況が起こらないようにするには、周波数帯をいくつかのスロットに分割し、1社が落札できる上限のスロット数を決める方法がある。新規参入枠を作り、ベンチャー企業でも参入できる余地を作る方法もある。日本は電波オークション後進国であるが、参考にできる実施例が豊富にあるとも言える。よく参考にすべきだろう。

日本では3.4G~3.6GHzの200MHz幅という4G向けの周波数帯を電波オークションにかける意向だ。

 日本において電波オークションの導入が進まなかった状況からすると、大いなる前進だ。ただし、現在再編している700/900MHz帯も電波オークションにかけるべきだと考えている。

既に700/900MHz帯と同様に使い勝手のいい800MHz帯をNTTドコモとKDDIが割り当てられている。公平競争が保てるのか。

 先ほどの新規参入枠を設定する方法が一つある。別の方法としては、既存事業者が新たな周波数を落札した場合は、既に持っている周波数に対しても同額の金額を支払ってもらう方法がある。落札するために高い金額を提示したいが、その分既存周波数の分も支払う必要があるため、高い金額を提示しにくくなるという効果がある。

700/900MHz帯は電波オークションを適用せず、既存の事業者が移行する際にかかる費用を新たに使う事業者が負担するという方針を総務省は示している。さらにその内容を反映するために電波法改正案を現在の通常国会で提出する方向で進んでいる。

 まだ時間はある。900MHz帯は早くても2012年、700MHz帯は2015年からの導入である。さらに周波数を割り当てられてもすぐに基地局などの設備を整えられる訳ではないし、加入者も急には増えないためだ。1~2年利用が遅れても、多くの企業が競争できる環境を整える機会として、電波オークションを実施すべきだ。