ネットマーケティングの世界は一見、高度な情報分析が浸透している分野のように見える。だが、2006年からSEM(検索エンジンマーケティング)専業のコンサルティング型代理店を営むルグランの泉浩人代表は「日本企業における取り組みは、先進的なリアル店舗の顧客情報活用のレベルにまだ達していない」と指摘する。泉代表に日本企業のネットマーケティングの実情と課題を聞いた。(聞き手は井上 健太郎=ITpro

ネットマーケティングの視点で見ると2011年は何がテーマになるだろうか。

写真●ルグランの泉浩人代表取締役
写真●ルグランの泉浩人代表取締役

 BtoC(企業対個人)の分野では購買力のある客にどれだけリピーターになってもらえるかだ。BtoB(企業間取引)ではリードナーチャリング(見込み客の育成)施策だろう。

 ただしネット通販に取り組む大手企業でも、関連する情報を横串を通して分析できる体制がまだ整っていないことが多い。必要なデータが分散して、企業内の個別サイロに入ってしまっている。これが情報活用の課題になっているケースも多いのではないか。

 例えば、何と何が同じ顧客から買われる傾向が強いのか、顧客の離脱が多いのはどんな商品カテゴリーなのか、その原因は在庫切れなのか商品競争力なのか、などの分析が案外できていない。

 マーケティングの責任者が社内データの棚卸しをすれば、100%ではなくとも、7~8割の傾向値は見られるはずなのに、誰も旗振りをしていないことが珍しくない。

LTVの考え方でリアル店舗に後れを取っている

トップダウンで戦略的にネットマーケティングに取り組むケースは少ないのか。

 例えば、顧客のLTV(ライフ・タイム・バリュー=顧客生涯価値)を見ようとしている企業がほとんど無い。リピート率ばかりを見ている。

 そのリピート率の分析すら、漠然とし過ぎている。「今月100件売れたうちの30件がリピートだからリピート率は30%」という数え方が一般的だが、これはごく一部のとらえ方にすぎない。

 他にも「昨年10月に初めて買った人はどの程度の頻度でまた買いに来ているのか」「半年で戻ってきた客のみをリピーターとした場合のリピート率は」「リピーターはどのくらいの頻度、LTVが期待できるのか」といった分析があり得る。ここまでできている企業はごくわずかだ。

リピーターを細かく見ることにどんな意味があるのか。

 なぜこうした分析やLTVの計算が必要なのかというと、ネットマーケティングに投じてよい費用が、これに応じて変わるからだ。リピート率が3割という数字だけで導いたリピーターのためのマーケティング予算が1人当たり3000円だったとしても、もっと絞り込んでリピーターをとらえれば1万円以上かけていいセグメントがあるかもしれない。それなのに3000円しか投じないとすればそれは機会損失の原因になり得る。

 百貨店などリアル店舗の顧客管理では既にこうした「お得意様」の分析を細かく行っているケースがある。ネット店舗のほうが細かく追えるデータが集まるはずなのに、あまり活用できていない実態がある。

 日本企業は生産・出荷リードタイムを短縮するためのデータ分析などは比較的熱心に行うのに、ネットマーケティングの分野ではあまり分析に労力を投じないように見受けられるのは残念なことだ。