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[後編]ICTも細部をとことん聞く 経営には聞く力が不可欠

中国でKOMTRAXを与信管理に活用しているそうですね。

 中国では90%以上が個人事業主に売れています。与信管理ができないので、普通だったら怖くて割賦で売れません。だけど、売った建設機械の稼働状況を確認できると、顧客の仕事の有無を把握でき適切な対応が取れる。建設機械の稼働状況が分かるKOMTRAXの仕組みが生きました。

 もちろん、最初からそんなことを考えていたわけではありません。盗難防止のために作ったシステムですが、運用するといろんなアイデアが生まれ、どんどん発展したのです。中国での与信管理もそんななかから生まれました。

 最近では、燃料の使用量も分かります。燃料を相当使っている顧客と、あまり使ってない顧客の違いを分析すると、運転の仕方の違いが見えてきます。燃料を使いすぎている顧客に教えてあげると、2~3割も燃料消費が下がる。燃料代は償却費以上に大きいですから、ものすごく喜ばれてコマツの評判も上がるわけです。

無人ダンプトラック運行システムもKOMTRAXの一環ですか。

 4番目の柱に位置づけています。実は、システムにすると売り上げがダンプ単体の1.5倍から1.7倍になります。AHSと呼ぶこのシステムでは、ダンプがどこを走るかまでコマツが決めます。採掘現場などでは走行路が毎日変わりますが、そのオペレーションをコマツが指導して料金をいただいています。そうしたサービスもまとめて売るわけです。

KOMTRAXやAHSは、通信技術を除き独自開発なのですか。

野路 國夫(のじ・くにお)氏
写真:陶山 勉

 大半は独自開発です。実は、それが問題になるのではないかと危機感を持っています。

 ICTの進歩はものすごく速い。そんななかで、グーグルやアップルはOSやアーキテクチャーなど大事なところだけを押さえて、あとは新しい技術を持ったベンチャーなどに自由にやらせていますね。だから、新たなサービスが次から次へと登場しています。

 一方、我々は自前で作っています。KOMTRAXもクラウドコンピューティングですが、今のやり方では人がいくらいても足りません。コマツには、システム開発だけでも200人の技術者がいます。このままでは携帯電話のソフト開発のように、さらに人員が膨らんで大変なことになるかもしれない。難しいことですが、日本発のデファクトスタンダードを作り上げる必要があります。

IT部門は世界にアンテナを張れ

ICTにもお詳しいですね。

 現場に「なぜだ、なぜだ」と聞けば教えてくれますよ。細かいところまで聞く力がなかったら、技術マネジメントはできません。聞くことで、こんな組織にしようとか、M&Aや提携を進めようとかいったことがひらめくのです。経営には選択肢がたくさんありますから、聞かないことには何が良いかを判断することはできません。

最後に、情報システム部門の担当者に求めるものは何ですか。

 世界中にアンテナを張り、最新技術や世の中がどうなっているかを把握したうえで、そうした技術を使うというのが、彼らの仕事です。日本のICTは後れを取っていますから、海外へ積極的に出て行って、ベンチャー企業とも付き合うだけの力を持たないといけません。

コマツ 代表取締役社長兼CEO
野路 國夫(のじ・くにお)氏
1969年3月に大阪大学基礎工学部機械工学科卒業、同年4月に小松製作所(コマツ)入社。97年6月に取締役に就任。2001年6月に常務取締役 生産本部長(兼)e-KOMATSU推進本部長、03年4月に取締役 専務執行役員 建機マーケティング本部長、05年4月に取締役 専務執行役員 建機事業、e-KOMATSU管掌、06年7月に取締役 専務執行役員 コマツウェイ推進室長。07年6月より現職。1946年11月生まれの64歳。

(聞き手は、木村 岳史=日経コンピュータ)