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[後編]オークション入札は時間をかけてリスク判断、海外の事例に学ぶべき

オークションの進め方で考えておくとよいことはあるか。

 複数の地域、複数のスロットのオークションを同時進行で一斉に実施するという考え方がある。

 そうすれば応札資金を分散させられる。広域で、多数のスロットを望む事業者は、資金繰りが難しくなる。特定の地域やスロットに資金を集中させれば、それ以外のところで参入障壁が下がり、中小事業者でも戦える芽が出てくる。米国のオークションでは全体を20前後に分けた。日本も、道州制のような考え方で全国を7地域程度に分けるとよいのではないか。

入札額に上限や下限を設けるという考え方があるが、どうか。

鬼木 甫(おにき はじめ)氏
写真:吉田 明弘

 それは不合理だ。オークションは競争原理に基づく。語源である「オグメント」(augment)は「増やす」とか「上げる」という意味。入札額が上がっていくことは避けられない。

 それでも、むやみに高騰しないよう用心深く進めれば、ある程度のレベルにとどめることはできる。

 重要なのは落札までにある程度長い時間を置くこと。1回の応札に1週間程度の時間をかけ、全体では数カ月かけてオークションを進める。本当に資金を手配できるかどうかを判断し、金額を上げるリスクを入念に考える時間を与えるわけだ。同時に、1回ごとの上げ幅を小さくさせる手もあるかもしれない。

コンビニエンスストアの例で、「退出」の話があった。オークション制度と合わせて周波数を譲渡する仕組みも必要だと。

 そうだ。例えば落札したにもかかわらず、結局、資金繰りが悪化して事業展開できないケースが考えられる。その電波を放置するのはもったいない。

 事業展開が難しくなったり、違うビジネスモデルに移行したりする場合には、免許条件を満たす範囲内で、第三者に譲渡あるいは賃貸できるようにする。ビジネスモデル次第では、一部の周波数だけを手放すというケースもあるだろう。こうした2次市場が成り立つようにすれば、周波数を無駄遣いせずに済むし、事業者が柔軟にビジネスモデルを描けて、競争が成立しやすくなる。

オークション制度の導入に向け、これから何をすべきか。

 制度設計について考えるべきことはたくさんある。例えば入札金をどう扱うか。電波使用料と同じ扱いでは額が大きすぎる。その電波使用料を、オークションで獲得した周波数に適用するかどうかも決めなければならない。免許の有効期限なども考える必要がある。

 いずれにしても、まずは海外の取り組みや制度をよく調査することが重要だ。閉じた知識や経験だけでは、適切な制度は作れない。

 幸い、海外には数多くの周波数オークションの事例があるし、実際にオークションを経験した人もいる。総務省は、外部機関を使うなどして早急に海外の制度を詳しく調査すべき。海外の機関に調査を委託する手もある。制度設計の報告書は多いほどいい。その上で、調査結果を公開し、客観的な情報に基づいた提案を求めるべきだろう。

大阪大学・大阪学院大学名誉教授
鬼木 甫(おにき はじめ)氏
1933年生まれ。東京都出身。1958年、東京大学経済学部卒業。1968年、米スタンフォード大学経済学博士。米ハーバード大学、カナダのクイーンズ大学の客員助教授などを経て、1976年、大阪大学社会経済研究所教授、1995年に大阪大学名誉教授。並行して、1996年に大阪学院大学経済学部教授、2009年に大阪学院大学名誉教授。2009年より、情報経済研究所代表取締役所長。著書に「電波資源のエコノミクス」(現代図書)。

(聞き手は,河井 保博=日経コミュニケーション編集長,取材日:2011年2月1日)