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[後編]M&Aではシステムがリスクに グローバル統合は極めて困難

リコーは以前、米IBMのデジタル印刷事業や欧米の販売会社を買収するなど、M&Aに極めて積極的でした。最近は少し控えているのですか。

 必ず誰かが「こういう企業がありますよ」とか、「こんな事業は要りませんか」とか言ってきますから、我々の販売網にきちっと合うものだったら検討します。

 ただ、差異化できないものを売ったところで、売り上げが増えるだけで利益率は上がらないので、やはりユニークなもの、自分たちのサービスを分厚くできるものを手がけたい。ですから、M&Aだけでなく、リコー流にアレンジしたものを作ってもらって売るということもあり得ます。

 一方、販売網については、拠点作りの観点からはもう十分です。これからは、むしろ整理していかなければなりません。例えば米国では、2008年に買収したアイコンオフィスソリューションズとリコーを一緒にして、きちんとリストラをかけたうえで、安定的に利益が出る体質に持っていこうとしています。

買収した企業も含め、情報システムのグローバル統一を進めてきましたが、成果はいかがですか。

 M&Aを実施したときに、問題となるのは情報システムです。提供するサービスが複雑になってきていますので、一つひとつの案件がそれぞれ違うわけです。それを新しい情報システムで統合しようとすると、かなり大変です。我々も結構苦戦しました。北米のビジネスで利益が出ないといって苦しんだのは、そこに原因があります。

 2008年と2009年は本当に苦労しました。その経験から言うと、システム統合は絶対に片寄せでなければならないと思います。サービスや業務プロセスを、今動いているシステムに合わせる形で標準化して、その後にパフォーマンスを追求するというやり方にしないといけません。

そうは言っても、全世界で標準化するのは難しくないですか。

 すごく難しい。実際、タイと米国とでは全く同じサービスを提供できませんので、ある程度はテーラーメードで作っていこうと言っています。ですから、同一サービスを世界中で展開するところまではやっていません。

 グローバルマーケティング本部を作った際にも、そんな問題意識がありました。まずはマーケティング戦略として、本筋のところを押さえておかないと駄目ですから。MDSは昨春グローバルで標準化しました。欧州や米国などの担当者が、それこそ缶詰になって標準プログラムを作りました。

IT部門はビジネスの前線に出よ

そうした経験を経たIT部門は今、社長の期待に応えていますか。

近藤 史朗(こんどう・しろう)氏
写真:陶山 勉

 私から見ると、社内のIT部門はまだ出遅れています。現場の痛みをあまり知らないとも言えます。「このままでは君たちは要らない」とはっきり言いました。

 我々が提供するドキュメントサービスに関して、顧客と一緒になって課題解決を図れるようにならないといけません。新しいサービスについても一緒に議論してほしい。IT部門がバックオフィス系のシステムにとどまっていたら、時代遅れになってしまいますよね。

 グローバル対応にしても、まだまだです。グローバル統合といっても、極端に言えば勘定系だけの話です。本当の意味で、我々が顧客にサービスを提供するのだという発想にまで至ってはいません。

 ただ、IT部門も気合いが入ったでしょうから、これからはいろんな提案を出してくれると思います。SI事業を展開するリコーITソリューションズや、保守サービスなどを手がけるリコーテクノシステムズともっと連携した取り組みを期待したいですね。

リコー 代表取締役 社長執行役員
近藤 史朗(こんどう・しろう)氏
1973年3月、新潟大学工学部機械工学科卒業。同年4月、リコー入社。96年2月にIPS事業部α-PTリーダー。2000年6月に執行役員に就任、同年10月に画像システム事業本部長。03年6月に常務取締役、05年6月に取締役 専務執行役員 MFP事業本部長。07年4月より現職。1949年10月生まれの61歳。

(聞き手は、木村 岳史=日経コンピュータ)