経営の最大リスクはシステム
そのようにビジネス展開を急ぐ場合、システム面でのリスクや課題が数多くあるかと思います。経営トップとしてそのあたりをどう解決されたのですか。
当社は1980年代後半から同じ基幹システムを使ってきました。ITベンダーからは「芸術の域に達している」と言われるほど、スパゲティ状態のシステムだったのです。その分、ITコストは安く済んでいたのですが、どこに影響が及ぶか分からないので新たな機能を付け加えるのが難しい、極めて遅れたシステムでした。そこで、この5年ぐらいでシステムの刷新を図りました。同時にデータセンタ ーも新たに構築しました。

実は、私が社長として決断したことのなかで一番自慢できると思っているのは、基幹システムを新しいものに切り替えたことです。一部のシステムはまだ残っていますが、山は越えました。大規模デ ータセンターに移したこともあり、新たなサービスを提供するうえで、システム対応が極めてやりやすくなりました。
その分、償却コストがかさみますが、欧米のものと比べても優れていると言えるぐらいのシステムが構築できました。アルゴリズム取引も最先端のものですし、リテ ール業務ではほぼペーパーレスを実現しました。
「一番の自慢」とおっしゃいましたが、それほど大きな決断だったのですか。
今まで言ったことはありませんが、個人的には社長としての最大の功績だと思っています。
私は社長就任の際の記者会見で、大和証券のリスクはシステムだと話しました。代々のシステム担当者が作り込んできましたから、複雑すぎて誰も触りたがらず、ずっと利用してきました。そのまま利用していれば私が社長のうちはまだ何とかなる。ただ、このままの状態では、いつかは行き詰まるのは明らかでした。
経営トップになると、自分の役割というのは、ある程度分かるものです。将来を考えると、システム刷新は一番の役割だろうと思っていました。
就任されたときから、そう腹をくくられていたのですか。
システム刷新は、切るべきものを切らないと実現できません。基幹システムではいろいろなソフトが動いていたのですが、誰が使っているのか分からないようなものがたくさんありました。それを一つひとつ調べだすと、もう何もできません。
ですから、そういうソフトはまとめて一気に捨てさせました。社内で利用するシステムに文句が出たとしても、相手は社内の人間ですから、文句が出てから考えようと言いました。
それと、システム刷新は時間を切ると、とても難しくなります。2年かかると言われれば、一応は了承しました。こんなのは3カ月でできるんじゃないかと思っていたとしてもです。当然、金額的にも大きなものになりますが、いったんはのみ込んだうえで、これはもう少し早くできるのではないか、コストはもっと下がるのでないかと、新たな提案を求めて、最終的には納得できるものにしていきました。
さらに、個々のプロジェクトの成果を認めていったことも、システム刷新を乗り切るうえで大きかったと思います。実際、システム刷新に携わったメンバーはよくがんばってくれました。
大和総研プロパーをCIOに
システム刷新の経験から、IT投資の判断で重要な点は何だとお考えですか。

システムはある意味、お金さえ払えば何でもできます。その分、最適化が難しい。ここまでやろう、ここからは必要はないという線引きをきっちり決めないと、非常に高くつくものになってしまいます。その見極めが極めて重要だと思います。
実は、グループ各社にCIO(最高情報責任者)を配置した理由も、そこにあるのです。経営者は、システムの細かいところまでは分かりません。ですから、他の投資なら5000万円とか1億円の案件であってももめるのに、システムだと50億円や80億円の投資でもすんなりと決まってしまうことがありました。
でも、システムを分かっている人間に、投資額の妥当性などについてきちんと説明させたうえで、最終判断を下すようにしなければ、おかしなことになります。そこで大和総研のプロパーを呼んで、グループ各社のCIOになってもらったのです。ユーザー側の人間として処遇し評価したことで、成果を上げてくれました。
他社では逆に本体のCIOやシステム部長がシステム子会社に出向するケースが多いようですが。
そういう形ですと、その人は子会社の利益代表みたいになってしまい、うまくいきません。
CIOだけでなく、IT部門や大和総研の担当者も含めて、経営トップが求める人材像はどのようなものでしょうか。特にグローバル展開のなかで、必要な人材像をお聞かせください。
もちろん、職位によって随分違います。まだ若い人に経営の話をしても仕方がありません。そういう人たちには、本物のプロとしての先端技術を身に付けてもらう必要があります。一方、部長や経営に近いところにきている人については、やはり費用対効果のバランスを考えてもらわなければなりません。本当にコストに見合うものなのか、総合的に判断できる能力を身に付けてもらいたいと思います。グローバル展開においても、それは同じことです。
鈴木 茂晴(すずき・しげはる)氏
(聞き手は、木村 岳史=日経コンピュータ)