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 「マスター・メンテナンスを担当する人に感謝する風土がないと、企業のデータベースは荒廃する」。

 この鋭い指摘は、ベアリング大手、ジェイテクトの吉田紘司会長(2011年6月28日から相談役)が社長時代にしたものだ(写真)。

 同氏は、トヨタ自動車でシステム企画部長を務めた経験があり、情報システムやデータベースの重要性を熟知しており、情報システム部員には、「ものごとを単純にとらえよ」、「データベースの責任者を明確に」と指示を出していた。

 データガバナンスという言葉こそ使っていないが、その姿勢はまさにデータをガバン(統治)するものと言えよう。日経コンピュータ2006年7月24日号に掲載したインタビュー記事を再掲する。データガバナンスは依然として、重要なテーマだからである。

(聞き手は谷島 宣之)

光洋精工と豊田工機が合併し、連結売上高1兆円をうかがうベアリング・メーカー、ジェイテクトが誕生して半年がたちました。経営統合の状況はいかがですか。

写真●ジェイテクト 吉田紘司氏
写真●ジェイテクト 吉田紘司氏

 今からシステム統合という大きな作業が控えています。両社が持っていた、仕事の進め方とか考え方、管理の仕方などをできるだけ合わせていきたいと思います。こうしたことが、情報処理の方法に大きく影響を与えるからです。

 ただし、異なるものを強引に合わせて、仕事が回らなくなっては困ります。例えば、原価管理については、製造する物が違うと、最適な方法が異なりますから、無理矢理同じやり方にすることはしません。

統合作業では何を重視しますか。

 データベースでしょう。データ項目だけはそろっていないといかんです。なぜ、そのデータ項目が必要なのか。会社として、どんなデータ項目をどうやって管理するのか。それらをきちんと決め、かつ決めた理由を、明確にしておくべきでしょう。

 一つのデータ項目の桁数だってそうですよ。桁数を適当に決めるのではなく、意味を持たせる。そうしておくと、現場の担当者それぞれが、「この桁数だから生産部門が作ったデータだな」という具合に、そのデータ項目の責任者が誰なのか見当がつく。このようにしておくと、部門間の仕事の通りがよくなり、現場には都合がいい。

基本部分をきっちり設計して、一度作ったら崩さないということですね。

 そうです。情報システム部門と利用部門の担当者が一緒になって、何十年も先を見越して、データベースの論理モデルを設計するべきでしょう。ここがしっかりしていれば、問題は出ない。一方、業務アプリケーションはその逆。アプリケーションが何十年も同じというのは、おかしい。業務はカイゼンや改革によってどんどん変化するし、積極的に変えていく必要がある。

システムのあり方に口を出す

情報システムのことは、担当役員に任せた、という社長が現実には多いように思います。

 いや、私は言いますよ。

いったいどんなことを。

 もちろんデータベースの細かいところについて質問したり、口出しするわけではありません。私が質問するのは、業務アプリケーションについてです。私は利用する人間の立場から、そのアプリケーションで何ができるのか、システム担当者にいろいろたずねます。

 例えば、「設計部門はどんな部品データを必要としていて、どう設計の履歴を参照しているのか」とか、「このアプリケーションを使っている生産管理部門が、部品を変更する場合、どうするのか」といった具合です。

 担当者の答えによって、「これは話にならない」とか、「一応答えているが、ちょっとだけぶれているな」といったことが分かります。「これぐらいのぶれならそのうち直せるな」と思ったら、進めるように認めます。しかし大きな投資案件は厳しく見る。場合によっては再検討を指示します。