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システムで顧客との関係を変える

そうした店舗業務の支援システムを使うことで、業務はどのように変わるのですか。

 JTBでは、歴史的に支店の権限が強く、各支店で業務フローが違うといったことは山のようにありました。システム化できない部分も多かったわけです。一方、トラベランドの店舗は従業員7~10人の小規模なものですから、バックヤードの業務を人手ではできないので、システム化しています。要するに、JTBができなかったことをやってきたわけです。

田川 博己(たがわ・ひろみ)氏
写真:陶山 勉

 今後、JTBの支店も小さくしますので、業務を標準化してシステム化しなければなりません。これまでJTBのシステム化とは、ほとんどの場合、予約システムのような基幹システムのことだったのです。一方で、店舗業務を効率化するためのシステム化は、十分にはできていませんでした。

 実は、旅行業は業務の標準化が難しいのです。世界一周旅行であれ、どんな商品であれ、つくろうと思えば一人でつくれてしまいますから。でも、業務の標準化やシステム化ができていないと、個々の従業員が顧客と良い関係をつくれても、その従業員が休んだとき、ほかの従業員がその顧客に対応することができません。

 店舗業務の支援システムは、紙ベースで行っていた手配・進行管理業務を電子化し、顧客対応などを一元管理するものです。今後は、顧客とのやり取りがすべてシステムに記録されるわけですから、顧客が来店しても、電話を掛けてきても、誰もが対応できるようになる。顧客との窓口は店頭でも、コールセンターでも、Webでも構わないということにもなります。

つまり、業務を効率化するだけではなくて、同時に顧客サービスの向上や顧客満足度の向上を図るわけですね。

 その通りです。顧客満足度を調べると、普通で80点から85点ぐらいです。では、足りないものは何かというと、もちろん難しいことではありますが、顧客の事情に合わせたきめ細かな対応なのです。ですから、100点満点を目指すには、その裏付けとして情報を集中化する仕組みが必要です。実際、トラベランドの店舗のほうが顧客満足度は高いのです。

人がやるべきことを先に考えよ

基幹システムも350億円を投資して新たに構築するとのことですが、どのような方針で臨むのですか。

田川 博己(たがわ・ひろみ)氏
写真:陶山 勉

 基幹システムはコアとノンコアを分けることにしました。今でこそ電子メールにグーグルのクラウドサービスを使っていますけれども、これまでは自前が大好きな会社でした。基幹システムを構築した当時は、鉄道や航空会社とのシステム連携が目玉でした。でも、専用線を使った独自のシステム連携が今でも必要なのかは疑問です。特に照会するだけなら、ネットで見に行けばよいのです。

 350億円という金額は、2015年度までの投資額です。従来は600億円をかけていましたが、コアのシステムに投資を絞ることで、6掛けぐらいにしようというものです。これにより毎年のITコストは従来の300億円から、240億円と2割削減できることになります。

最後にIT部門やシステム担当者に望むことを聞かせてください。

 システム担当者は、どうしてもマニアックなシステムを開発したがります。彼らにはいつも言っていることですが、機械にお金をかけさえすれば、本来不要なものでも何でもできてしまいます。ですから、人間がやるべきことを、まず先に考えてほしい。その上でシステム化に取り組むべきです。

JTB 代表取締役社長
田川 博己(たがわ・ひろみ)氏
1971年3月に慶応義塾大学商学部卒業、同年4月に日本交通公社(現JTB)に入社。90年2月に営業企画部企画課長、96年2月に川崎支店長。98年4月に米国の日本交通公社の取締役企画部長、99年2月に取締役副社長。2000年4月に日本交通公社の営業企画部長。同年6月に取締役に就任。02年6月にJTB常務取締役。05年6月に専務取締役営業企画本部長。08年6月より現職。1948年1月生まれの63歳。

(聞き手は、木村 岳史=日経コンピュータ)