
コンデンサーや圧電製品など高性能な電子部品で高い収益力を持つ村田製作所。スマートフォン需要の追い風などを受け、一時の業績低迷を乗り越えた。既に売り上げの85%は海外向けだが、新興国市場の開拓を通じてさらなるグローバル化を目指す。新規市場でのプレゼンス強化も目論む同社の村田恒夫社長に、その事業展開とIT活用について聞いた。
最近は新興国への進出や新規分野の開拓などを経営目標として掲げられています。
従来、市場を引っ張ってきたのは欧米の顧客層だったわけですが、最近では新興国に需要がシフトし、顧客層が変わってきました。我々も経営資源を新興国にシフトしつつあります。
例えば我々がトップシェアの積層セラミックコンデンサーは、どんな機器にも使われている汎用部品ですが、新興国ではより安価なものを求められます。特に中国は非常に大きな顧客ですので、中国製品でも使われるような廉価版を造っていかなければなりません。
開発は日本、設計は新興国で
今後は海外生産の比率を大きく高めるのですか。それに伴い、技術開発などコア機能の移転も考えられていますか。
実は当社の場合、売り上げの85%は海外向けなのですが、生産は85%が国内です。その分、円高に苦しめられますから、海外生産比率を2012年までに30%に引き上げる計画です。
ただ、それだけでは現地のニーズにマッチした製品を造れません。設計やマーケティング機能も必要ですから、中国を手始めにそうした機能を移転していきます。開発については、まだ中国にはそれだけの能力がありません。ですから開発は日本で行い、設計などの機能を中国で展開することで、現地のニーズに合った製品づくりを進めていこうと考えています。
そろそろ新興国でも電子部品メーカーが育ってきていると思います。規模拡大のためのM&A(合併・買収)は検討しないのですか。

確かにローレベルの製品なら造れる現地メーカーが育ってきていますが、我々は現地の同業者と同じものを造る気はありません。
ただM&Aをやらないわけではありません。2012年までの3カ年の中期経営計画の中で、従来の市場や新興国市場に加え、新規市場での取り組みを戦略の柱に据えています。当然、今まであまり得意ではなかった分野については、M&Aやアライアンスを推進していきたいと思っています。
新規市場とはどういった分野ですか。具体的な取り組みを聞かせてください。
環境・エネルギー、自動車、ヘルスケアの三つの分野を、当社としての新規市場としてアプローチしています。
新規分野の開拓では二つのアプローチがあります。例えば車載用のコンデンサーには高い品質レベルが求められます。電気自動車やハイブリッドカーの分野では、大電力用の特殊なコンデンサーが必要になります。そうした製品の供給が一つめのアプローチです。
もう一つのアプローチが、ソリューションの提供です。ソリューションとは顧客の困り事を解決することですから、顧客の製品の品質を向上させる工夫や、部品点数の削減方法などを併せて提供することを行っています。さらに、医療機器向けの通信モジュールや、それを動かすためのファームウエアの提供なども、ソリューションとして取り組んでいます。
組織風土改革で自主性引き出す
新興国や新規市場の開拓などの新たな取り組みのため、社内改革を進めているそうですね。
組織風土改革です。組織の壁がいろいろとあったり、上を見て仕事をする従業員が増えてしまったりしたことで、組織の活性度が大きく低下した時期がありました。多くの部門で大企業病に陥ってしまったのです。そこで、6年前から改革を始めました。
その際、大切にしていきたい価値として、ES(従業員満足)とCS(顧客満足)を掲げました。もちろん、上から言って済む話ではありません。従業員自身が自分たちの活性化を図ったり、組織間の壁を破ったりするための活動を展開してくれています。例えば、部門横断的にカイゼン活動などを行う次長・課長会の取り組みがあります。こうした取り組みにより、少しずつ組織風土が変わり始めたかなと考えています。

ESについてはいろんな誤解があったのですが、我々が定義するESとは、従業員一人ひとりが仕事を通じてやりがいを感じるということです。自らが新しいことにチャレンジして、自分の成長を実感してもらう。その結果、新たなソリューションが生まれ、顧客にも喜んでもらえます。
リーマン・ショックの影響で赤字転落した際、従業員が強い危機感を持ってくれました。その結果、改革を自分たちでやり遂げるという意識が強くなったと思います。
実際に現場の自主的な取り組みの結果、顧客に喜んでもらった事例はありますか。
例えば、ソニーの液晶テレビでの話があります。テレビを観る人がいないと自動的に画面が消える機能に、当社のセンサーが採用されました。その際、当社の担当者が自ら考え、センサーを目立たなくする提案を行い、ソニーにとても喜んでもらえました。
村田 恒夫(むらた・つねお)氏
(聞き手は、木村 岳史=日経コンピュータ)