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グラフィックチップ(GPU)を開発する半導体メーカーとして1993年に設立された米エヌビディアは、今や携帯端末向けプロセッサからスーパーコンピュータ向けGPUまで供給している。多様な製品群を抱えるエヌビディアの研究開発方針について、共同創業者兼上級副社長のクリス・マラコウスキー氏に聞いた。

(聞き手は浅川 直輝=日経コンピュータ


米エヌビディア 共同創業者兼上級副社長 クリス・マラコウスキー氏
米エヌビディア 共同創業者兼上級副社長 クリス・マラコウスキー氏
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製品の開発体制を教えてほしい。

 我々の主な製品群は、パソコン向けGPU「GeForce」、ワークステーション向けGPU「Quadro」、携帯端末向けGPU混載プロセッサ「Tegra」、スパコンなどHPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)向けのGPU「Tesla」の4種類だ。

 これらの製品については数世代先までのロードマップを公開し、それぞれ技術者を割り当てている。ただし、根幹となるGPUアーキテクチャは共通だ。開発したアーキテクチャを同時に4製品群に展開することで、開発を効率化している。

GPUの処理能力を汎用の演算処理に応用する「GPGPU」の開発にとり組み始めたきっかけは。

 正直に言えば、GPGPUの最初のアイデアを出したのは我々ではない。「GPUという高い計算処理能力を持つチップを他の分野にも応用できないのか」と、熱意ある若手の研究者が我々に訴えたのがきっかけだった。6~7年前のことだ。

 大変難しい試みだとは分かっていたが、我々は5年前にGPU向けの汎用プログラミング言語「CUDA」を開発した。その成果を目の当たりにしたときは、本当に感動した。

 最初に見いだされたGPGPUの応用先が、油田など地下資源を探索する研究だったのは、GPGPUにとって幸運だったろう。地下資源の探索は、多大な投資をかけてでも研究するに値する問題だったからだ。その後、CUDAの開発環境やライブラリといった周辺環境が急速に整備され、金融から気象シミュレーションまで多様な用途に使われるようになった。

 最近では、CAE(コンピュータによる設計支援)ソフトウエア「Abaqus」をCUDA対応にしたことで、計算時間を半分に短縮する成果を挙げた。コードの最適化を進めれば、さらなる高速化が見込めるはずだ。技術系の企業は、技術者の生産性を高める情報システムへの投資は惜しまない。人件費こそ、企業が抱える最大のコストだからだ。(自動車産業が集積する)日本では、CAEがGPGPU市場の拡大に大きく寄与しそうだ。

現行のロードマップの先にある技術の研究開発体制は。

 将来に向けたプロジェクトが2つある。1つは「プロジェクト・デンバー」。エヌビディア独自の高性能ARMプロセッサーを開発しており、既に3年ほど投資している。

 デンバーの目的は明確で、市場が受け入れてくれるような高性能かつ低消費電力のプロセッサーを作ることだ。もちろん内部では技術的目標は据えられているが、公開はできない。

 もう1つの「プロジェクト・エシュロン」は、米国防総省高等研究計画局(DARPA)が資金を拠出するプロジェクトだ。2018年頃に開発するエクサスケール・スパコンの仕様を研究している。携帯端末から超大型コンピュータまで適用できるするコンピューティングプラットフォームを開発する、きわめて野心的なプロジェクトだ。

 政府が求める性能を満たすように、アーキテクチャ、チップ設計、I/O、メモリー階層、ソフトウエア開発、OSなどの仕様を決定し、シミュレーションで実証する。HPCベンダーの米クレイおよび6大学、国立研究所と連携している。

プロジェクト・エシュロンのようなHPC向け技術の開発は、エヌビディアのGPU開発に生かせるか。

 エシュロンの成果が我々の製品群に生かせるかどうかは、まだ分からない。プロジェクト・エシュロンが目指すのはアーキテクチャの設計であり、革命的でインテリジェントなメモリー階層がカギになる。現行のGPUベースではなく、ゼロベースでアーキテクチャーを考えなければならないだろう。

 もちろん、我々も政府プロジェクトを通じてメインストリームのビジネスを推進したいし、政府もそれを理解している。ただ、政府プロジェクトには大きな責任を伴う。政府が求めるパフォーマンスレベルと電力効率を達成するのが最優先だ。

 プロジェクト・エシュロンの素晴らしいところは、製品の開発では取りづらい、大胆なアプローチが取れることだ。漸進的にアーキテクチャーを変えるのではなく、大きな視点でアーキテクチャーを描くことができる。さらに複数の企業、複数のチームが協業し、互いに得意分野について作業を分担できる。これは我々にとって貴重な体験だ。