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 アイドルユニット「AKB48」には、突出したスターが人気を引っ張っているという印象は薄い。メンバーの総力を結集した「団体戦」で成果に結びつけている。そこで、AKB48のプロデュースを担当し、美空ひばりの「川の流れのように」などの作詞家としても有名な秋元康氏に「売れるチーム」の作り方を聞いた。

 同氏からは「商品の差異化」にはなぜチームが必要なのか、どんなチームが望ましいのか、さらには、異質なアイデアを生かすためのマネジャーの心得など、流行に左右されない本質的なビジネス哲学を聞き出すことができた。このインタビューは2010年3月初めに行ったものだが、「売れない時代を乗り切る営業団体戦!」という当時(2010年5月号日経情報ストラテジー)の特集テーマにふさわしかったのはもちろん、2011年現在もなお示唆に富んだ談話となっている。

(聞き手は島津 忠承=日経情報ストラテジー

 「営業の本質はいかに差異化を図るかです。ほかとの違いが、顧客が関心を持つきっかけを生み出すからです」

AKB48のプロデュースを手がける秋元康氏
AKB48のプロデュースを手がける秋元康氏。「多様化が進んだ現在は、バラバラであることが魅力になる」と語り、AKB48のメンバーにも多様な人材を集めている
写真撮影:菊池 くらげ

 「AKB48では、『会いに行けるアイドル』というコンセプトを掲げました。一般に、ファンはまずテレビや雑誌でアイドルを見つけ、それからコンサートへ出かけて会いに行くものです。一方、AKB48はテレビや雑誌では見られないかもしれないけれど、秋葉原に行けばすぐに会える。これが差異化の要素となって、ファンに“刺さる”のではないかと思いました」

 AKB48は2005年の活動開始当初から幅広い人気を集められたわけではない。初期の公演では来場客が10人に満たない日もあった。ブレークするにはインターネットの力が不可欠だったと秋元氏は見る。

 「多様化が進んだ現在、誰もが満足する“最大公約数”のコンテンツを作ることは困難です。そこで“最小公倍数”のファンに刺さるコンテンツを作り、それを繰り返して広げていく構想でした。この構想が成功したのはネットのおかげです。来場するファンが少なかった当初から、ネットでは『AKB48劇場というものが始まったよ』という情報が流れました。さらに公演を重ねると、多くのファンが『AKB48が面白い』とブログやネット掲示板に書き込んでくれるようになりました。“口コミ”の浸透でファンが増え、定員250人の公演に111倍の応募をいただくようなことが起こったのです」

“レール付きゴーカート”の顧客志向は駄目だ

 秋元氏はこうしたネットの声に加え、ライブ会場に足を運んで来場客の生の声にも耳を傾けてきた。ファンに感想を尋ねたり、会場の盛り上がりぶりを肌で感じ取ったりしていたという。

 秋元氏の姿勢は、企業が顧客の声を収集する取り組みに通じるように見える。しかし秋元氏は顧客の声を「採り入れる」マーケティング活動の在り方にこう疑問を投げかける。

 「確かに女子高生たちに商品開発に参加してもらうなど、顧客の声を聞く取り組みを企業もよくやっていますが、その多くは失敗しています。“大人たちの影”がちらついているからです。そのような試みは、“遊園地のレール付きゴーカート”のようなものです。子供がハンドルを握って進んでいるつもりでも、下にレールが敷いてある状態。本当に自分たちが運転できているわけではないから、顧客は盛り上がれません」

 「僕がAKB48でファンの生の声を聞いたのは、そうしないと進むべき方向が本当に分からなかったから。AKB48はファンが運転する“レールが無いゴーカート”です。プロデューサーはファンなのです」

東京・秋葉原の「AKB48劇場」で3月3日に開かれた「研究生」の公演。正規メンバーではないものの、250人収容の会場が立ち見で溢れる人気ぶり。予定調和を壊すきっかけとなる新メンバーの候補が着実に育っている
東京・秋葉原の「AKB48劇場」で3月3日に開かれた「研究生」の公演。正規メンバーではないものの、250人収容の会場が立ち見で溢れる人気ぶり。予定調和を壊すきっかけとなる新メンバーの候補が着実に育っている
写真撮影:菊池 くらげ

 もちろんAKB48を盛り上げるために、秋元氏は思いついたアイデアをいっぱい投げている。しかし、アイデアを採用するかどうかはファンが決めることだという。

 「実際、僕のアイデアが拒絶されたことは何度もありますよ。例えば初期に思いついた、会場で最も盛り上がってくれたファンをMVPに選出してTシャツをプレゼントするアイデアには、『応援スタイルは様々なのに、大騒ぎした人をMVPに決めるのか』というクレームをいただきました。僕はその通りだと思い、この制度を1日でやめました」

 「僕には到底思いつかない演出がファンから自然発生したこともあります。桜の花びらをステージに散らせる演出をする曲が終了した後、舞台監督が花びらを掃除するためにモップを持ってステージにやってくると、次の曲を期待して『モップ、モップ』とコールが沸き起こるようになったのです」

 「モップコール」のような自然発生した演出をはじめ、秋元氏は偶発的な要素を柔軟に採り入れることを意識している。