大成建設が海外展開を着々と強化しつつある。2009年3月期には中東ドバイなど海外での土木事業の業績悪化で赤字を計上したが、国内建設市場の縮小が続く中、海外市場の開拓で活路を開く事業戦略にブレはない。「海外展開にIT活用は不可欠」と語る山内隆司社長に、その海外事業戦略と震災以降の国内事業の行方、そしてIT活用の勘所を聞いた。

2011年度までの中期経営計画では、「市場縮小下における利益確保」を目標に掲げていますね。現状はいかがですか。
国内の設備投資は、公共事業も含めて大きく減っています。大手5社はシェアを高めることにより、準大手以下に比べ減り方は少ないのですが、国内だけでは仕事量を確保できなくなります。海外でどのようにビジネスしていくかが、これからのポイントです。
そのためにも、ITの活用は絶対に必要です。我々が製造業と大きく違うのは、“製造拠点”が分散していることです。製造業なら多くても30カ所ぐらいですが、我々の場合、常時2000カ所の拠点が動いています。しかもテンポラリーなのです。建設が終わると撤収して次に行く。そうした拠点を管理して、ジャストインタイムで資材と労務を供給するには、ITの活用しかありません。
さらに様々な調達先と連絡、調整にもITが不可欠です。我々は建設業界のなかでも、いち早く調達システムを完成させましたので、今後は世界で通用するものにしていきたい。国内向けの資材も今後はグローバルに調達できなければなりませんので、整備を急いでくれと言っています。
私はITの専門家ではありませんが、ITの活用についてはかなり貪欲に考えています。
日本の総合建設業は世界無二
海外展開については、どのような戦略をお考えですか。

実は、日本の総合建設業と全く同じ形態の建設会社は、世界には存在しないのです。米国のベクテルやドイツのホッホティーフ、フランスのブイグといった名だたるグローバルプレーヤーも、単なるコントラクター、請負者であって、自社で設計機能や技術開発機能などを持っていません。
アフリカのジブチで、五ツ星ホテルの建築を請け負ったことがありますが、国際会議に間に合わせるために1年足らずで完成させなければなりませんでした。高層ホテルでは、とても間に合わない。そこで、3階建ての低層ホテルを提案して、設計と工事を同時作業で進め、ネット調達も駆使して、なんとか間に合わせました。発注者には大変満足してもらい、「ジブチの奇跡」と言われました。
こういう芸当ができるのは、日本の総合建設業しかありません。ですから、こうした独自の強みを自ら十分に認識して、世界でビジネスをやっていかなければならないと思っています。
強みを生かせば、海外でも十分に戦えるわけですか。
ええ、戦っていけます。そう思っていますので、海外に行ってまで地元業者でもできる仕事を価格競争で取り合いするのはやめようと、私は社内でやかましく言っています。たとえ取ったとしても、日本から人件費の高い技術者を連れて行っては、うまくいくわけがありません。それよりも地元業者にはできないような仕事を手がけるべきなのです。
海外事業を展開するためのインフラは整っているのですか。

例えばフィリピンには、タスプランという子会社を置き、図面や積算の業務を行わせています。こうした労働集約的な業務を日本でやると労務費が高いものですから、大学で建築を学んだ現地のフィリピン人を採用して、仕事をしてもらっています。
日本国内に比べ半分以下のコストで済みますので、大変なメリットです。それに海外の仕事は全部英語ですから、図面を描くにしても、見積もりをするにしても、日本人がやるよりはるかに能率が良いのです。
こうしたことは、ITの進歩がなければできなかったことです。大量のデータを瞬時に現地と日本とでやり取りできる環境があってこそです。今や、様々な作業について、世界のどこでやるのが一番効率的かを考えることができるようになりました。
山内 隆司(やまうち・たかし)氏
(聞き手は、木村 岳史=日経コンピュータ)