外資系通信事業者として、日本国内向けの通信という厳しい市場を生き抜いてきたKVH。IaaS(Infrastructure as a Service)、メールセキュリティなどのクラウドサービスを次々に打ち出し、シェア拡大に従来以上に積極的な姿勢を見せ始めた。同社の戦略をウォーリーCEOに聞いた。
まず、日本の市場をどう見ているかを教えてほしい。

日本はITに関しては世界第2位といっていい大きな市場だ。ユーザーはITをもっとうまく活用できるはず。我々はそれを、主にクラウドサービスの提供という形で支援していきたい。
情報システムにフレキシビリティーを持たせられる点、コストメリットを得やすい点などから、クラウド市場は拡大していく傾向が見られる。それが大手企業の導入事例という形で見えるようになってきた。これからがチャンスだ。特に製造業やメディア業界を中心に顧客を拡大していきたい。
KVHというと、金融業界、とりわけ証券業界に強いイメージがある。実際、これまでは自らそう伝えてきたと思うが。
確かに、我々は親会社が投資信託会社の米フィデリティということもあって、金融業界、特に証券業界には強みがある。強みにしているのは信頼性が高く、遅延が小さいネットワークだ。証券業界では、今はコンピュータによるアルゴリズム取引が多くなっている。特に欧米はほとんどがアルゴリズム取引で、ミリ秒単位の伝送遅延時間でさえ、取引成功の可否に影響する。我々は、欧米から日本に進出してくる証券会社などからの厳しい要求に応えるべく、サービスを開発してきた。
もう一つの強みは、我々のサービスを通じて証券業界のエコシステムができていること。東京、大阪はもちろん、海外の各証券取引所にも低遅延で接続できる環境を作ったことで、証券業界の各社がKVHのデータセンターを利用するようになった。そのパートナー企業にとっては、KVHのデータセンターはパートナー同士が容易に、しかも低遅延のネットワークで接続できる環境。この点が、金融業界向けで大きな力になっていることは間違いない。
ただそうは言っても、金融系の顧客は当社のビジネス全体で見れば4割だけ。残りの6割は他業界の顧客だ。金融業界のニーズに合わせて実現してきたサービスの品質・信頼性の高さが、ほかの業種のユーザーに対しても強みになっている。
確かに品質や信頼性の高さは重要だが、証券業界以外では、そこまでのスペックが必要なケースは多くない。
ネットワークの品質や信頼性以外の観点でも、サービス強化を進めている。具体的にはデータセンターやクラウドサービスだ。今年2月には千葉県印西市に第2データセンターを開設した。建物は完全免震設計。サーバー設置スペースは4000平方メートルだが、敷地から考えて1万6000平方メートルまで拡大できる。

加えて、5月にはIaaSの「KVH Cloud Galaxy」を始めた。契約やリソース割り当てのシステムを完全自動化し、ユーザーはGalaxyのポータルページからセルフサービスでリソースを手配・管理できる。構成にもよるが、導入も最短15分程度で済ませられるはずだ。もちろん、システムは冗長構成を取ってある。8月には、このIaaS上でSaaS(Software as a Service)型のメールセキュリティサービス「KVH MailScan MX」も開始した。
我々は、これらのネットワーク、データセンター、クラウドサービス、そしてプロフェッショナルサービスをセットで提供する。「情報デリバリープラットフォーム(Information Delivery Platform)」と名付けた。
リチャード・ウォーリー(Richard Warley)氏
(聞き手は,河井 保博=日経コミュニケーション編集長,取材日:2011年7月7日)