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 炭素繊維や水処理関連など先端技術を駆使した素材で世界をリードする東レ。新興メーカーの追随を許さない競争力の源泉は、国内での数十年にわたる研究開発の地道な蓄積だ。再び成長路線に軸足を移した同社は、環境関連事業の強化やグローバル展開を加速する。大学院でITを研究したと話す日覺昭広社長に、事業戦略や同社におけるITの役割について聞いた。

日覺 昭廣氏
写真:陶山 勉

今年度は、経営の軸足を従来のコスト削減重視から、成長重視に移しましたね。

 リーマン・ショック後の2年間は経済危機の克服に集中しようということで、徹底的にコスト削減を実施してきました。適正価格で売る、我々は「売り抜き」と言っていますが、そうした取り組みできちんと利益を確保できるようにもしました。

 ただ、それだけでは将来がないので、成長に向けた手も打ってきました。我々のような装置産業は、設備投資に2年ほどかかります。先行きが見えないと決裁が難しいのですが、それでも検討を進めていたおかげで、今年1月に北京で水処理に使うRO(逆浸透)膜工場がスタートするなど、成長に向けた形もできてきました。

 そして、ようやく今年度からの中期経営課題として、成長戦略を推進できるようになったわけです。もちろん、コスト削減も継続します。3年間で700億円削減するつもりです。

わずか2年で経営環境が激変

リーマン・ショック、あるいは東日本大震災で経営環境はどのように変わりましたか。

日覺 昭廣氏
写真:陶山 勉

 それは、10年先に起こると思っていたことが、極端に早まったということです。わずか2年間でアジア、新興国、特に中国が世界を引っ張る存在になりました。我々が「グリーンイノベーション」と呼ぶ、水処理やCO2排出量の削減につながる素材へのニーズも、急速に高まりました。

 特にグリーンイノベーション事業については、東日本大震災や電力危機があった関係で、ますます勢いがつくでしょう。幸い東レは震災の影響が軽微でした。自動車などの産業の復旧・復興も予想よりも早く進んでいますので、今後は成長戦略を加速していけると思っています。

アジアや新興国のメーカーも追いかけてきますね。

 東レは基礎素材メーカーとして、炭素繊維にしても50年前から開発を続けています。二十数年前に初めて飛行機の尾翼に採用され、それから何年も何年も実績を積み重ねて、ようやくボーイングの新型旅客機「787」の構造材に全面採用されたわけです。

 このように素材は20年、30年の地道な研究開発が生きてくる世界なのです。それが、自動車や電機などの組み立て産業との違いです。ですから、簡単に取って代われるものではありません。

アジア、新興国の市場開拓は進んでいるのですか。

日覺 昭廣氏
写真:陶山 勉

 実は我々の場合、ずっと前からアジアに進出しており、タイ、マレーシアでは50年近くの実績があります。我々は装置産業ですから、一度立地したら簡単には動けません。組み立て産業のように、安い人件費を求めて工場を動かすわけにはいかないのです。ですから、その地域とともに発展し根付くというのが、グローバル展開における基本的な考え方です。

 そして、ここへきて進出先が製造拠点から市場になってきた。我々は少し考え方を変えるだけで、事業を拡大できる余地が生まれてきたわけです。

今後、グローバル展開を加速するなかで、国内の研究開発や生産を維持できますか。

 日本にきちんとした研究開発と製造の拠点があるというのは大前提です。中国やタイで全部やれば、4~5年はすごい利益が出るでしょう。しかし、新しいものが出てこないから、成長がなくなってしまいます。ですから、今期の1000億円の設備投資のうち、500億円は国内での投資なのです。

韓国に炭素繊維工場を造る計画が、震災や国内の電力不足の問題との絡みで、何かと取り沙汰されていますが。

 震災があったとか、何かがあったとかは全く関係がありません。例えばポリエステルフィルムの8割は海外で造っていますし、樹脂は75%が海外です。炭素繊維にしても既に60%以上は海外です。日本は高コスト構造ですから、最先端のものを開発して造っていくしか採算が合わないのです。コスト勝負になると、日本で造っていたら競争に負けます。

 炭素繊維でも、航空機用のハイエンドのものは国内で造っていますが、産業用はコスト競争が激しいため、電力や税金が安くコスト競争力がある韓国でも造ることにしたわけです。しかも、韓国は多くの国とFTA(自由貿易協定)を結んでいるので、輸出条件が日本に比べてはるかに良いのです。

東レ 代表取締役社長
日覺 昭廣(にっかく・あきひろ)氏
1973年3月に東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。同年4月に東レに入社。2000年6月に工務第2部長、01年6月に理事 エンジニアリング部門長 工務第2部長。02年6月に取締役 エンジニアリング部門長、04年6月に常務取締役に就任。05年6月に常務取締役 水処理事業本部長 エンジニアリング部門長。06 年6 月に専務取締役、07年6月に代表取締役副社長に就任。10年6月に代表取締役社長 COO、11年6月に代表取締役社長 CEO兼COO。1949年1月生まれの62歳。

(聞き手は、木村 岳史=日経コンピュータ)