2011年6月に公表した経営戦略「ビジョン2015」で大幅に組織を再編。これまでの事業部制組織から機能別組織に改めた。企業向けネットワークでは強いブランドを誇る半面、収益性の低下に苦しんでいる。クラウドやデータセンター、グローバル展開など、成長領域へどうシフトしていくのか、有馬社長に聞いた。

今回の組織再編は、大半の従業員の組織が変わる大規模なものだったと聞く。狙いを教えてほしい。
回線ビジネスなど既存事業をできるだけ効率化して、その経営リソースをクラウドをはじめとするソリューション、あるいは新しいビジネスの分野に再配置することだ。例えば回線部門では、従来はIP-VPN、広域イーサネットなどサービスの種類ごとに分かれていたネットワークの運用を共通化することにした。国際サービスもソリューションに組み込んで提供するために、従来の独立した組織を改めた。
我々にとって最大の悩みは、音声を中心とした通信事業の収益性が低下し続けていることだ。顧客からは「帯域を増やして、料金は下げてほしい」といったリクエストが次々に来る。下げ止まりの兆しはいまだ見えてこない。
とはいえ、IP/インターネットのおかげで通信業界全体の構造が変わっているのだから、ある程度はやむを得ない。その中で利益を確保していくには、既存のリソースをできるだけ効率化して、仕事のやり方を変え、どんどん新領域にチャレンジしていくしかない。
通信事業者でありながら何でも仕掛けられる点はNTTコミュニケーションズの特徴であり強み。だから、できるだけフットワーク軽く、様々なソリューションを展開していく。特にクラウドサービスでは、オンプレミスの事業を抱えているシステムインテグレータに比べると、我々には失うものはない。だからこそリソースをクラウドに投入し、力を注いでいく。
大規模な組織変更によって、新体制に慣れるまでの間、組織としてのパワーが削がれるのではないかという懸念はあった。それでも早く変革に着手したかったし、従業員、特に若手が今の閉塞感の解消に前向きだったから、改編に踏み切った。
仕事のやり方を変えるというのは、何をどう変えたいということか。
ソリューションの提案の仕方を、各組織が持っているサービス基盤を組み合わせて提案していくスタイルにしたい。これまでは、「欲しいものがあれば作ります」と、ユーザーに求められたものをそのまま作って提供するというスタイルだった。それでは時間もかかるしスケールメリットも得られない。

方法としては、まず共通基盤を作り、個別のニーズには様々なソリューションをトッピング的に使って応えていく。典型的なのがクラウドサービスだ。
ユニクロ(ファーストリテイリング)がグローバルネットワークで採用したように、既に大規模にクラウドサービスを導入するケースが出てきている。ユニクロの場合は、ほぼ新規のネットワークだったから特にクラウドを適用しやすかった。ただ、ほかの企業にしても、今後の情報システムを考えるうえでクラウドは必ず視野に入る。共通基盤があれば、そうした企業にソリューションを横展開できる。
そのために、従来は企業、個人、国際とユーザー規模別だった体制を改め、共通基盤を作りやすくした。最初に言った各ネットワークの運用共通化はその一つだ。上位レイヤーに関しては、クラウドサービス部、アプリケーションサービス部、それらを統合した提案を手掛けるソリューションサービス部という具合に、横断的にソリューションを考えられるようにした。
クラウド事業で目指しているビジネス規模は。
今の売上規模は、国内外合わせて900億~1000億円だ。これを、早い時期にその2倍まで持っていきたいと思っている。
有馬 彰(ありま・あきら)氏
(聞き手は、河井 保博=日経コミュニケーション編集長,取材日:2011年10月11日)