米ジュニパーネットワークスの創業者で、CTO(最高技術責任者)として同社の技術戦略を導いてきたシンドゥ氏。インターネットなど今のネットワーク社会のインフラを築き上げてきた立役者の一人とも言える同氏に、今のコンピュータネットワークの課題と、今後の方向性について聞いた。

クラウドコンピューティングをはじめ、コンピュータネットワークは技術の進歩とともに、利用環境がどんどん変わっている。今はどのような課題があると見ているのか。
少し広い視野からIT全体について考えてみると、今の課題は運用コスト(OPEX)が急激に増えていることだ。ITにかかるコストとしては、いまやOPEXがシステム投資(CAPEX)を大幅に上回っている。
技術の進歩によって、コンピュータやストレージは単価がどんどん下がってきた。これに伴って、クライアント-サーバーのようにたくさんのサーバーやストレージを配置し、ネットワークを介して利用するスタイルが浸透した。インターネットの普及でそれがさらに加速し、クラウドコンピューティング、モビリティーなど新しいスタイルが生まれてきた。今は、その新しい情報インフラの時代が始まったところだ。
このコンピュータの指数関数的な増加に伴って、コストも増えている。コンピュータ1台当たりで見ればOPEXは下がっているが、全体の額は急激に膨らんでいる。
ネットワーク分野も同じだと。
そうだ。にもかかわらず、それを解決するためのイノベーションを生み出すスピードは十分ではないのが実情だ。
インターネット技術は進歩が速いとよく言われる。
確かに、イノベーションが起こり、とても速く進歩してきた。特に1990年代後半から2000年代の初頭はそうで、主にハードウエアが進歩し、それがコンピュータやインターネットの発達・普及につながった。ただ、「シンプルに保つ」という点で問題を残した。そのために、今、新たなイノベーションが必要になっている。
ネットワークには、どのようなイノベーションが必要なのか。
オートメーション(自動化)だ。それによって運用コストを減らす。
ネットワークは三つの機能で成り立っている。データを転送するデータプレーン、経路などの制御を司るコントロールプレーン、そしてマネジメントプレーンだ。このうちのコントロールプレーンを集中制御できるようにし、運用を自動化する。これは、我々ジュニパーネットワークスが2009年10月にニューヨーク証券取引所で発表した「ニュー・ネットワーク」の基になっている考え方だが、最近よく取り上げられるSoftware Defined Network(SDN)と根本的に同じ発想と言える。
ネットワークというのは距離あるいは空間を埋めるものだから、それを物理的に担うデータプレーンは、どうやっても分散型になる。1990年代から2000年代初頭にかけて、インターネットのイノベーションによって、急速にルーター/スイッチの性能・機能が向上し、トラフィック制御などの処理機構がデータプレーンに取り込まれた。これに伴って、コントロールプレーンも分散型になった。
しかし、帯域のプロビジョニングやネットワークのモニタリング、トラフィックなどに応じた課金などの仕組みは、ネットワークを集中制御したほうが効率良く実現できる。だから、ある程度まで制御機能をデータプレーンから切り離し、一元化する。これにより制御が容易になり、運用を自動化しやすくなる。
これがジュニパーのニュー・ネットワークやSDNの考え方だ。今年の4月、米国で開催されたOpen Networking Summitでグーグルが、彼らのデータセンター間ネットワークをすべてSDNに置き換えたことを明らかにした。あれがまさに、帯域のプロビジョニングやモニタリング部分を集中制御できるようにした例だ。
とはいえ、今よく話に出るSDNは、逆に一元化に寄りすぎている。すべてを一元化するとスケーラビリティーを損なう。データプレーンの役割とコントロールプレーンの役割を、バランス良く分ける必要がある。
イノベーションを加速させるにはどうしたら良いか。
標準(オープン)インタフェースを使ってオートメーションを実現することだ。オートメーションの技術を汎用的なプラットフォームに適用しやすくすれば、アプリケーションが充実し、多くのユーザーに使ってもらえるようになる。そして、ユーザーから得られるフィードバックを技術に反映していく。この繰り返しで、技術の進歩は加速していく。これをプラットフォーム効果と呼ぶ。