PR

 総合化学から個性派化学へ。この10年、事業構造の転換を進めてきた昭和電工。今や石油化学ではなく、ハードディスク装置用磁気ディスクが利益の大半を稼ぎ出す。さらなる変革に向け陣頭指揮を執る市川秀夫社長は、かつて外資との合弁会社でERP(統合基幹業務システム)導入を手がけた経験を持つ。その市川社長に事業戦略とITに求めるものを聞いた。

まず、今後の事業の方向について聞かせてください。

1975年3月に慶応義塾大学法学部を卒業、同年4月に昭和電工に入社。99年6月にモンテル・エスディーケー・サンライズに出向しビジネスサポート部長、同年12月に同社に転籍。2003年3月より昭和電工 戦略企画室、同年5月に戦略企画室長。06年1月に執行役員 戦略企画室長兼人事室担当補佐。08年9月に取締役兼執行役員 HD事業部門長兼エレクトロニクス事業部門担当。11年1月より代表取締役社長 社長執行役員 最高経営責任者(CEO)。1952年3月生まれの60歳。(写真:陶山 勉)

 2015年までの中期経営計画は「PEGASUS(ペガサス)」と名付けています。昭和電工グループとしての将来ビジョンを具体的にイメージしてもらいたいと考えたからです。天を駆けるペガサスの翼になぞらえて、磁気ディスクと電炉で使う黒鉛電極という、特徴のある事業を大きくすることを内外に宣言したわけです。実際、二つの事業に傾斜した投資計画を立てています。

 以前、昭和電工は総合化学会社でしたが、10年ぐらい前に「個性派化学」と宣言して、事業構造の転換を進めてきました。ですから、それをさらに明確にすることで、それぞれの事業部の従業員にも立ち位置やなすべきことを考えてほしい。多少ネガティブなことも含め、私が従業員にきちんと説明することで、理解が得られると思っています。

石油化学の事業環境は厳しい

主要事業の石油化学の位置付けはどうなるのですか。

 「基盤(安定)」と位置づけています。ただ、最近は環境が大きく変わってきており、事業の安定度が失われてきています。顧客である日本の電機産業の競争力低下や、円高の定着、新興国市場の急拡大などに伴う調整段階だと言えますが、そうしたなかでも、安定した収益源になってもらいたいと考えています。

石油化学事業の大胆な見直しはあり得ますか。特にエチレン事業が焦点だと思いますが。

 今の段階では、はっきりとは言えません。エチレンの国内生産能力は業界全体で700万トン以上あるのに対して、国内需要は500万トンにすぎません。当然、生産能力が需要に見合ったものになっていくはずですが、当社だけで解決できる問題ではありません。

 エチレンは石油化学コンビナートにとって血流のようなものです。儲からないからといって精製施設を止めたら、コンビナート全体が止まってしまいます。エチレンなどの基礎化学品を外国から買うことが国家安全保障上の問題にならないかという論点もあります。とにかく、極めて複雑な連立方程式みたいなものですから、もう少し時間をかけて考えないといけないことだと思います。

二つの翼ですが、特に磁気ディスク事業が好調ですね。

 現在の8500億円の売り上げのうち、磁気ディスクが12~13%、黒鉛電極が7~8%で、両方を合わせて20%です。磁気ディスク事業は、直近ではPCの全世界での出荷量が落ちているので、思ったほどには伸び率が高くないのですが、それでも比較的順調です。

 磁気ディスクは利益率の高い事業です。石油化学の売上高営業利益率が3~5%に対して、磁気ディスクは20%以上にもなります。磁気ディスクはものづくりの勝負です。基板に貴金属を蒸着させて磁性層を作るわけですが、この磁性層の積み方に関する生産技術が競争力の源泉です。それが、同じIT関連でも利益率が低いDRAMなどとの違いです。

 今やハードディスク装置メーカーは事実上、米国のシーゲイト・テクノロジーとウエスタン・デジタル、東芝だけです。シーゲイトにも納入することになり3社全てと取引することになりました。その結果、我々のシェアは過去最高の29%にまで伸びました。