創立75周年を迎えた日本IBM。外国人として56年ぶりに社長に就任したマーティン・イェッター氏が、改革に向けアクセルを踏み始めた。日本のユーザー企業がグローバル化を加速させている機をとらえ、真の意味で“世界直結”の組織、ビジネス構造に変わろうとしている。「私は成長の話しかしない」とする“戦略家”のイェッター氏にその事業戦略を聞いた。
社長に就任して数カ月たった今、日本の市場や顧客、そして日本IBM自身について、どのような認識を持っていますか。

日本IBMの社長に就任する前は、本社で戦略を担当していました。その意味ではもともと、日本におけるビジネス機会が中国、ドイツ、フランスを合わせたものよりも上回ると見ていました。
顧客である日本企業は今、大きな課題を抱えています。来日してから70~80社の経営トップに会いました。その結果、中小企業、大企業といった経営規模を問わず、どの企業もグローバル化を果たしたいと考えていることが分かりました。やはり、国内市場の成長は限定的であり停滞しているため、いかにグローバル市場や新しいセグメントを開拓するか、どのようにM&A(合併・買収)を実施するかといったところが、共通する課題でした。
そういった意味で、IBMは日本企業をサポートできる最良の位置にあると思っています。と言うのも、IBM自体がグローバルな企業ですし、この10年間に100社以上のM&Aを手掛けてきたからです。日本のみならず、世界で顧客を支援するノウハウを持っているわけです。ですから、日本でのこれからに非常に期待が持てると考えています。
各国のIBMとの連携を強化
そうした有利な条件にありながら、日本IBMはここ数年、売り上げを随分落としました。何が原因と考えていますか。
売り上げが下がり続けた理由については、前任者に聞いてください。私は将来だけを見つめていますから、今後売り上げを伸ばすうえでの課題については、いくつかのことが言えます。
一つは、顧客が成功するために必要なことは何か、顧客がIBMに要求しているものは何かに焦点を当て直すことです。もう一つは、先ほどお話ししたように、真に統合されたグローバル企業(GIE)として必要なものを提供することです。つまり、効率性を高めて生産性を改善し合理化を進めるだけではなく、新たなセグメント、新たな事業、顧客にとっての新たな顧客を開拓するのをグローバルで手伝うということです。
ITの主戦場はこれからますますフロントオフィスに移っていきます。この分野では、IBMも大きな投資をしており、顧客もどんどん投資をしている。今後、ビジネスアナリティクス、いわゆるビッグデータの分野がさらに伸びてくると思います。IBMにはこの分野に優秀な人材がおり、日本の顧客の期待にも応えていきたいと考えています。
実際には日本IBMと各国のIBMの連携ができていないとか、M&Aで得た製品や技術の情報が日本に入ってこないとかいった不満の声が、大手ユーザー企業から聞こえてきます。
まず二つめのご指摘からお答えします。最新の買収案件の内容については、それこそ喜んで情報提供したいと思っており、それができる体制にするつもりです。私が以前、自動車メーカーとのパートナーシップを担当する役員だったときには、M&Aがあれば即座に顧客に公表してきました。日本でもそうした情報については、迅速に話すようにします。
最初のご指摘の件についてですが、日本の顧客に対して海外では特別な形で対応するようにしています。現在、欧州の3カ国、米国の西海岸と東海岸、そして中国には、日本IBMのスタッフが常駐して、日本の顧客にサポートサービスを提供する体制になっているのです。
IBMは全体で40万人の社員がいるため、これまでは連携が難しかったのは事実です。ただ現在では、サポート体制をこのように変えましたので、ご指摘の課題は改善できると考えています。