固定通信セットでスマホの料金を割り引く「auスマートバリュー」、500本以上のアプリを定額でダウンロードし放題にする「auスマートパス」といった3M戦略のサービス発表から約1年。田中社長に、これまでの手応えと、2013年に向けた新たな戦略を聞いた。
「スマートバリュー」「スマートパス」といった3M戦略を始めてほぼ1年が経過した。どう評価しているか。
点数を付けるなら70点~80点。この1年で、3M戦略として打ち出した、マルチユース、マルチデバイス、マルチネットワークのコンセプトはかなり達成できたと考えている。最初からスケジュールを決めて、軸をぶらさずに進めてこられたことが大きい。

3M戦略は社長になる前、つまり2年以上も前から実行のタイミングを図っていた。最初の1年はスマートフォンをそろえるところから手を着けた。2011年10月にiPhones 4Sを発売し、MNP(番号ポータビリティー)の転入超過件数で一番になった。これでモーメンタム(勢い)が回復してきたと判断。2012年1月に3M戦略を発表することを決めた。
一方で、本当にマルチデバイスをシームレスに使えて、ユーザーに感動を与えているかというと、まだそこまでいっていない。ここが100点に届かない、マイナス20点、30点の部分だ。2013年にはもっと力を入れる。
スマートバリューについて聞きたい。どんな効果があったのか。
他社との差別化という点で、以前からモバイルと固定通信の両方のサービスを提供できるのがKDDIの強みと思っていた。ただしこれまでは、戦略としてきちんと打ち出せていなかったし、サービスを作り上げることもできなかった。
スマートバリューは、モバイルをフックに、KDDIあるいはパートナーの固定通信サービスを契約してもらうサービス戦略。ユーザーはまずモバイルから選ぶので、割引額(最大月額1480円)を明確にして、モバイル側に寄せてある。
固定通信を変えてもらうことはハードルが高そうだが。
意外とそうでもない。固定通信は“色がない”サービス。単独で訴求することが難しいので、これまでは家電製品などとのセット割引にして訴求していた。一方で、“色がない”固定通信は選択肢さえ複数あれば(他のサービスに)セットしやすい。そこでスマートバリューではFMC(Fiexed Mobile Convergence)型サービスとしてモバイルと固定通信を組み合わせた。
次にどうなるかというと、家庭内で連鎖が進んでいる。スマートバリューの割引が使えるauスマートフォンが家庭内で増えていく。そのときにポイントとなるのが、自分の欲しい端末があるかどうか。だから社長就任1年目は端末の品ぞろえに注力した。スマートフォンは差別化が難しいと言われるが、逆にみれば、同じもので少し違うところがあれば、そのほうにチャーン(移行)しやすい。実際、1世帯当たりのau回線数は2012年3月末時点で1.5人だったが9月末時点で1.7人まで上がってきている。狙い通りのことが起こっている。
複数の商材が重なって満足度が高くなれば、解約率が下がってくる。2011年第3四半期からどこの事業者よりも低くなっている。
スマートバリューやスマートパスは増収効果を生んでいるのか。
スマートバリューは、モバイル側に20%の新規、固定通信側に12%の新規があると、増収効果を生む。それは達成しているので、両方とも増収になっている。スマートパスの進捗も予定通り。
ただし、スマートバリューは割引が入るから、ARPUにはマイナス効果になる。それでも、スマートフォンへのシフトが進んでいるので、ARPUは下げ止まりつつある。2013年度中には間違いなく反転する。月ベースでは2012年度中には反転するとコミットしている。
コンテンツ関連の付加価値ARPUは落ちている。何が問題なのか。
付加価値ARPUの課題はスマートパスの浸透ではなくて、フィーチャーフォンの落ちのほうが深刻。フィーチャーフォンで全くデータを使わなくなってきている。スマートフォンにシフトしているけど、フィーチャーフォンの落ちを吸収しきれていない。だからARPUが落ちている。一つにはSNS(Social Networking Service)の影響があると思う。