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日本のものづくりの最前線で活躍する工作機械。業界大手の森精機製作所では数年がかりでアフターサービスを強化してきた。機械の不具合を受け付けるコールセンターは24時間365日対応。全国から集まった腕利きのエンジニアが電話に対応する。手厚いサービスによりブランド力を高め、買い替え需要に結びつける。

 三重県伊賀市にある森精機製作所の伊賀事業所。主力工場である同事業所の第2工場2階には、工作機械メーカーの工場らしからぬ風景が見られる。「サービスセンタ」と呼ばれるコールセンターには同社製品の購入者から修理要請の電話が1日1000件かかってくる。ヘッドセットを頭につけて対応に当たるのはベテランのエンジニア三十数人。電話の受け付けは、業界唯一の24時間365日。森精機はここ数年、修理や点検、部品の販売といったアフターサービスに力を入れてきた。

 2007年3月期は連結売上高1620億円、純利益140億円で4期連続の増収増益を見込む。修理や点検、部品販売といったアフターサービスの売り上げは、全体の1割弱を占める。

森精機製作所の伊賀事業所(写真左)と、主力製品の1つ「NT4200DCG」
森精機製作所の伊賀事業所(写真左)と、主力製品の1つ「NT4200DCG」

 アフターサービスに力を入れ始めたのは2002年8月だ。「景気の回復がアフターサービス強化の背景にあった」と語るのは伊賀事業所長でもある水口博副社長。景気の回復は生産現場を忙しくする。企業の設備投資額も回復し、工場に備え付けられた工作機械の稼働時間も長くなる。稼働時間に比例して不具合は発生する。当然、点検や修理、部品の販売といったサービスは必要になる。

 同社が顧客へのサービス強化に乗り出した2002年後半に、日経平均株価は8000円台を底に徐々に回復し始める。工場では残業や夜間の作業が増え、工作機械の修理や点検などの問い合わせも増え始めた。忙しくなるにつれ、2つの問題が浮かび上がった。

サービスの起点は電話対応

 森精機は全国に41カ所のサービス拠点「テクニカルセンタ」を持っている。このテクニカルセンタには通常10人弱のエンジニアが所属している。顧客からの電話を受けて修理や点検、部品交換に当たってきた。同社の製品を購入した顧客は最寄りのテクニカルセンタを紹介され、修理や点検の際には連絡する。テクニカルセンタは地域に根ざした存在だった。

 工作機械の修理で重要なのが最初の電話対応だ。機械に熟知したベテランは電話口で不具合の状況を聞くだけで原因はおよそ理解できるという。不具合が起きたからといって必ずしも現場に急行しなければならないわけではない。電話口で修理の方法を指示したり、部品を送り交換方法を指示したりするといった解決もできる。

 このように顧客との会話から不具合の場所と原因を特定し解決策を提示できるエンジニアは、1カ所のテクニカルセンタに1人か2人いる程度だった。こうしたエンジニアは、電話受け付けを重点的に担当するが、忙しい時にはもちろん客先に出かけなければならないことも多い。

 その間は、ほかのエンジニアが電話を受けることになるが、会話だけでは不具合の原因を見つけられず顧客を訪問することになる。景気が回復し、修理や点検、部品交換といったアフターサービスの需要が高まるにつれ、電話対応をこなせるベテランのエンジニアが全国的に足らなくなるという事態が起きてきたのだ。

 もう1つ浮き彫りになったのが夜間の問い合わせだ。2002年後半から工作機械を利用する工場の夜間の稼働が増え始めた。当然、夜間に不具合により工作機械が停止することも起きるが、数人のエンジニアしかいないテクニカルセンタでは夜間シフトを敷くのは難しい。

 そこで森精機が考え出したのが、ベテランエンジニアの「大部屋」を作ることだ。2002年8月に伊賀事業所にサービスセンタを設置。全国のテクニカルセンタから集められた優秀なエンジニア三十数人が24時間365日、対応に当たった。フリーダイヤルを設けて全国の顧客にはテクニカルセンタではなくサービスセンタに連絡をもらうことにした。水口副社長は、「工作機械は生産財。故障で止まる時間が長いほどお客様には膨大な損失が発生する」と対応時間の延長について話す。2005年6月には千葉事業所にもサービスセンタが設けられ、サービスを担当する地域も東西で二分された。

●修理・点検の「知」を結集させることで効果
●修理・点検の「知」を結集させることで効果

●アフターサービスは重要な顧客接点
●アフターサービスは重要な顧客接点

知識を共有してサービス向上

 この大部屋は人海戦術で昼夜、問い合わせに対応できるようにするためだけではない。電話での解決に長けたエンジニアが1カ所に集められたことでノウハウが蓄積された。互いに詳しい機械の領域についての知識を教え合い、組織全体の対応のレベルが上がったのだ。サービスセンタの壁一面を使った本棚に多数の製品マニュアルが並べられている。これほどの分量のマニュアルはテクニカルセンタごとでは持ちきれない。

アフターサービスにITも活用

 サービスセンタではIT(情報技術)を使ってより質の高いアフターサービスを提供しようと試みている。2004年にはインターネットを使った機械の遠隔監視システム「MORI-NET」を導入した。顧客の機械を遠隔操作し、機械を復旧させることができる。

「サービスの良さが新規受注につながる」と話す水口博副社長
「サービスの良さが新規受注につながる」と話す水口博副社長

 またサービスセンタでは「自動ポップアップ機能」で対応の効率化を図っている。顧客からの電話をエンジニアが受け取った瞬間にパソコン画面にはその顧客が購入した機械の種類や使用、修理履歴などが浮かび上がる仕掛けだ。

 優秀なエンジニアを集めた「大部屋制」を敷いた結果、現在では約7割の不具合の問い合わせに電話だけで解決できるようになっている。水口副社長は、「エンジニアにとっても機種ごとに詳しいもの、そうでないものがある。補完し合うことで電話で解決できる確率が高くなった」と話す。

 もちろん3割の不具合に関しては、エンジニアが現地に行く必要が出てくる。この場合、サービスセンタからテクニカルセンタへ指示が出ることになる。修理に部品が必要な場合は伊賀事業所のパーツセンタへ連絡が行く。パーツセンタには常時、4万4000種類の工作機械の部品が保管されている。現在、修理の依頼があってから24時間以内に部品を発送できるケースは全体の90%以上だ。

 サービスの最前線にも工夫が凝らされている。テクニカルセンタでは各エンジニアの位置をGPS(全地球測位システム)付き携帯電話で確認しながら、移動のスケジュールの最適化を図っている。各エンジニアはノートパソコンからデータベースにアクセスすることができ、機械の仕様や修理履歴、技術資料などを確認できる。

 4年がかりのアフターサービス強化はずいぶんと進んだ。今後は副次的な効果が期待できそうだ。1つは蓄積された故障や修理についての情報の還元。水口副社長は、「伊賀事業所内のサービスセンタと設計部隊は目と鼻の先。何か問題があればお互いに行き来している」と話す。新製品開発には日々顧客と接しているエンジニアの声が反映されているという。

 もう1つは営業面での効果。営業本部S&P部の杉井才文(たかふみ)マネージャーは、「修理や部品発送が終われば、毎回最寄りの営業所にも連絡が行くようになっている。『先日の修理で大丈夫でしたか』と営業担当者がフォローに行くことで新規受注につながることもある」と話す。実際にアフターサービス面を評価して購入を決める顧客も少なくないという。サービス向上は森精機の成長を加速させることは間違いない。

●リスク強化するための情報の流れ
●森精機のアフターサービス体制
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