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キリンビールは10月,グループ9000人を対象とする大規模なリアルタイム・コミュニケーション/コラボレーション環境を構築した。在席確認のプレゼンスを中核に据えて,インスタント・メッセージ(IM)を導入。通信事業者のIPセントレックスとの連携を実現し,クリック・ダイヤルの実装に成功した。

写真1●キリンビールの桝田浩久情報企画部部長補佐
写真1●キリンビールの桝田浩久情報企画部部長補佐

 「あのまま放置しておくと,社員は電子化された情報に押しつぶされてしまい,本来やるべき業務や創造的な活動に充てるべき時間が奪われかねなかった」。キリンビールの桝田浩久情報企画部部長補佐は,刷新前の社内システムについてこう話す(写真1)。

 キリンビールは2006年10月,新しいコミュニケーション環境を構築した。電子メール,IP電話に加えて,新たにインスタント・メッセージ(IM)を導入。あらゆるコミュニケーションの基盤となるシステムに,プレゼンスを据えた。また緊密な情報共有ができるよう,ディスカッション・スペースを設けた新ポータル・サイトを立ち上げるなど,リアルタイムなコラボレーションが図れる仕組みも取り入れた。

データ量は「新聞約2万年分」と膨大

 同社がこうした環境を構築した背景には,電子データの爆発的な増加と多様化が社内で急速に進んでいたことがある。2007年で創立100周年を迎えるキリンビールには,実にさまざまなシステムが稼働中。全社共通のイントラネット・サーバーのほか,200以上あるNotesデータベース,Exchangeのパブリック・フォルダ,SharePoint Portal Serverのポータル・サイト,全社共用ファイル・サーバー,部門サーバーなど多岐にわたる。

 蓄積されたデータ量も,約6T(テラ)バイトと膨大。「新聞約2万年分の情報量にも匹敵する」(桝田部長補佐)。

 この膨大な情報の中から入手したい情報にたどり着くのは並大抵のことではなかった。情報を見付けられなかった社員は,その情報を持つ人に電話して解決を試みるが,すぐにつかまえられるとは限らない。最終的に行き着くのは,電子メールによる連絡。このためキリンビールでは社内で送受信する電子メールが増える一方だった。

 社員1日1人当たりの電子メール送信数は平均で80通に達していたという。社内情報が集まりやすい総務部門などでは「受信した文章を処理するだけで十数時間を要することもあった」(桝田部長補佐)。返信が不要なメールに目を通すだけでも一苦労。全社員が閲覧しなくてはならない重要な公式文書も,毎日10数通届く。中には1通で20ページにわたる文書もあった。

プレゼンス自動更新重視でLCS選択

 キリンビールは,こうした事態は社員の生産性を大幅に低下させる要因になると判断。2005年春,新しいコミュニケーション/コラボレーションのシステム構築に乗り出した。

 キリンビールがまず最初に着手したのは,社員同士がリアルタイムかつ確実にコミュニケーションが取れるプラットフォームの整備だ。具体的には電子メールやIP電話といったコミュニケーションの中核に,プレゼンス管理システムを据えた。「在席中」や「会議中」など他の人の状態をネットワーク経由で取得することで,相手の状態を常に把握できる。電話のかけ直しや伝言メモに費やす無駄な時間を省ける。

 企業向けプレゼンス管理システムは今ではさまざまなメーカーから出荷されているが,同社が検討を始めた2005年春ころはわずかで,自ずと二つの製品に絞られた。2005年9月に出荷を開始した米マイクロソフトの「Microsoft Office Live Communications Server 2005」(LCS)と,NTTコミュニケーションズ(NTTコム)が提案したソリューションである。NTTコムのソリューションは,一足先に導入を始めたIPセントレックス・サービス「.Phone IP Centrex」の付加機能だった。

 最終的には,スクリーン・セーバーの起動などに合わせた「プレゼンスの自動更新」の搭載や,OutlookなどのOffice製品やExchange Serverとの親和性が高かった点を評価し,マイクロソフトのLCSに決定した。

IMを第3のツールと位置付け

 現在,マイクロソフトのLCSを使ったプレゼンス管理システムは,グループ会社を含むキリンビール全社員9000人が利用している。基盤となるネットワークは,NTTコムのIP-VPNサービス「Arcstar IP-VPN」(図1)。データ通信と音声通信は,2本のイーサネット専用線をそれぞれ使い,中継網ではQoSを利用して分離させている。

図1●プレゼンス管理システム導入でコミュニケーション活性化を狙うキリンビール
図1●プレゼンス管理システム導入でコミュニケーション活性化を狙うキリンビール
マイクロソフトのLCSを用いるプレゼンス管理システムはキリンビール・グループの社員9000人が使う。IP電話はキリンビールだけが導入しているので4000台となっている。
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 社員は,パソコンにインストールされたLCSのクライアント・ソフトのOffice Communicatorを,あらゆるコミュニケーションの基点とする。

 例えば,相手の在席状況を確認して不在だった場合,なぜ不在なのかを確認する。Office Communicatorは,Exchange Serverのスケジュール機能と連動しており,相手のスケジュールを表示可能。これを見れば,戻り時刻や空き時間を把握できる。

 連絡したい相手が在席中なら,電子メールのほか,クリック・ダイヤルによる固定IP電話からの発信,IMから連絡手段を選べる。このうちキリンビールの期待が極めて高いのはIMである。「IMは電話と電子メールの中間に位置する第3のツール。ミーティング時間変更の一斉通知やちょっとした確認などはすべてIMで代用できる」と,電子メールと電話の使用頻度を減らしつつも,リアルタイムなコミュニケーション環境を図れる重要なツールと位置付けている。

SIPサーバーのAPI公開を取りつける

 リアルタイムなコミュニケーション環境を手に入れたキリンビールだが,ここにくるまでの道のりは平坦だったわけではない。プレゼンスがLCSに決定してからも,システム・インテグレータにその構築を断られ続けた。ネックとなったのが,クリック・ダイヤルのサポートである。「どのインテグレータも,IPセントレックス・サービスとLCSを連携した開発経験がなかったため,『保証できない』という回答だった」(桝田部長補佐)。

 インテグレータ各社が二の足を踏むのも無理はない。NTTコムは.Phone IP Centrexが使用するSIPサーバーの仕様を明らかにしておらず,外部から接続するためのインタフェース仕様も未公開だったからである。

 キリンビールはLCSの実績が豊富な日本ユニシスにインテグレーションを依頼し,2005年秋からNTTコムと仕様公開の交渉を開始した。その結果,SIPサーバーのAPI公開の契約を約2カ月後に交わすことができた。

 「交渉前はある程度時間がかかると予想していたが,ここまで短期間で契約できたのは予想外。公開しないという話はほとんど出なかった。それでも無償公開というわけにはいかなかったので,金額面の詰めに多少時間がかかった」(桝田部長補佐)。

電話アプリもクリック・ダイヤル搭載

 クリック・ダイヤルは次のような実装手法を採った。まずデータ・センターにクリック・ダイヤル専用のサーバーを設置。ここに,NTTコムから提供を受けたJavaのクラス・ライブラリと,これを使って独自に作成した「電話の接続要求」と「リモートからの切断要求」から成るモジュールを格納した。そして社員がOffice Communicatorに表示された相手を選択すると,このモジュールが呼び出され,NTTコムのSIPサーバーに接続要求のメッセージを送出する。

 キリンビールでは,「誰が何を知っているか」といった知識と人を結び付けるknow who機能を備える電話帳アプリケーションを稼働させている。この電話帳アプリケーションにも同様に,クリック・ダイヤルの機能を実装することにした。

 ただし,二つのクリック・ダイヤルの操作手順が異なるとユーザーは混乱しかねない。そこで,社内電話帳アプリケーションからもOffice Communicatorからも,共通の電話発信画面を介して電話がかけられるようカスタマイズした(図2)。

図2●異なるアプリケーションからもほぼ同じ操作で電話をかけられる
図2●異なるアプリケーションからもほぼ同じ操作で電話をかけられる
独自開発した社内電話帳アプリケーションからもOffice Communicatorからも,共通の電話発信画面を介して電話がかけられるようカスタマイズしている。
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 また,相手先の電話番号を複数から選べるようにしているのは,複数の部署を兼務したり,携帯電話を持つ社員がいるため。会議室にノート・パソコンを持ち込むような場合には,会議室に設置された電話機から発信できるように,電話の発信元も複数から選べるようになっている。

プレゼンス/IMで年間約7億円の削減

 プレゼンスやIMの費用対効果の算定はなかなか難しい。キリンビールはこの10月に導入したばかりということもあって効果の算出は済んでいない。概算ではプレゼンスやIMの導入によって,これまで電話の取り次ぎや伝言メモの作成,再電話にかかっていたコストを,年間で約7億円削減できると見込んでいる(表1)。また,新ポータル・サイトによるコラボレーションの強化で,検索に費やしていたコストも約7億円削減できると予測する。

表1●情報共有とコミュニケーションに関するキリンビールの課題と解決策
表1●情報共有とコミュニケーションに関するキリンビールの課題と解決策
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 キリンビールは,電子データだけでなく,物理的な紙の消費も膨大である。全社で毎月数百万枚のコピー用紙が使われているという。そこで今後は,会議資料やコピー用紙などの物理的な紙を減らしていく意向。具体的には,大型モニターやプロジェクターを会議室に設置し,紙媒体を使わない会議スタイルを推進する。