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松下電器産業は2007月3月末までに,4万台のIPセントレックス端末を導入する。通信事業者のIPセントレックス・サービスと構内PHS端末を組み合わせたIP電話システムを構築。松下製のIP電話機と構内PHS端末を全面的に採用することで,「IP電話事業の推進」という攻めの目的も達成した。

 「破壊と創造」をスローガンに業務改革を推し進める総合家電メーカー,松下電器産業。その松下が,これまでのIPセントレックス・サービス*の型を破るIP電話システムを導入した。NTTコミュニケーションズ(NTTコム)のIPセントレックス・サービスの端末として採用したのは,松下製の構内PHS。その数は2万台に迫る。

 2006年3月末時点で,本社,13工場,5研究所,2営業所の計21拠点で一人に1台の構内PHS端末を配布した。2007年3月末までには,ほぼ同規模の2万台を追加する予定。導入対象は,社員数が50人を超える規模の約100拠点。将来は,計120~130拠点で最大8万台規模にまで拡大する計画だ。

 2万台という規模もさることながら,IPセントレックス・サービスと構内PHSを組み合わせたシステムはほかに例を見ない。異例とも言える組み合わせを松下が選択した背景には,三つの狙いがあった。

今年度末までに40億円を削減


図1 IP電話システム導入の狙い
コスト削減と顧客満足度の向上に加えて,自社のIP電話関連事業の振興・育成も大きな目的の一つ。

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写真1 松下電器産業コーポレート情報システム社の財津良和グループマネージャー
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図2 松下電器産業の音声ネットワーク
2006年3月末時点で,関連会社を含む全468拠点のうち21拠点にPHS端末とIP電話機を合計2万台導入済み。NTTコムのIPセントレックス・サービスの詳細は「日経コミュニケーションEXCLUSIVE」(http://itpro.nikkeibp.co.jp/NCC/ex.html)に掲載。

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 その狙いとは,(1)コスト削減,(2)顧客満足度の向上,(3)自社IP電話関連事業の推進──である(図1[拡大表示])。(1)のコスト削減は,PBX投資の抑制によ って実現。(2)と(3)は,「050」番号*による構内PHS端末へのダイレクト着信と,子会社のパナソニック コミュニケーションズが持つ構内PHSシステムの活用が鍵となった。

 コスト削減額は,PBX(構内交換機)への投資抑制効果で計る。具体的には2005年3月末時点で19億円,2007年3月末までに累計40億円だ。松下が抱えていたPBXの数は,関連会社の拠点を含めて計468台。うち4割の機器が寿命を迎えていた。それどころか,「耐用年数が過ぎ,10年を超えていた拠点も少なくなかった」(IPセントレックス導入を指揮したコーポレート情報システム社 IPコミュニケーショングループの財津良和グループマネージャー,写真1[拡大表示])。

 PBXへの投資を抑える一方で,「外線の本数はほとんど減らさなかった」(財津グループマネージャー)。加入電話網からの代表番号への着信と110番や119番といった緊急通報発信は,PSTN*ゲートウエイでまかなう(図2[拡大表示])。

050番号でダイレクト着信

 二つめの狙いである顧客満足度向上は,中村邦夫社長が掲げた「カスタマー・ダイレクト・コミュニケーション」施策に沿ったもの。全社員が顧客の声に対して直に耳を傾けられるよう構内PHS端末に050番号を割り当て,顧客からの電話を社員一人ひとりが直接受けられる体制を整えた。

 社員が構内PHS基地局の圏外にいる場合でも,「圏外アナウンスは顧客に失礼」(財津グループマネージャー)という観点から,所属する部署の他の電話機に転送する。固定IP電話機で着信できるほか,部署内の構内PHS端末による代理応答が可能。さらに2007年3月末までには,不在時に顧客からの電話があったことを社員が素早く知ることができるよう,PHSサーバー側に留守番電話機能を追加する予定だ。

 050番号の導入で苦労したのは,海外拠点からの電話だ。050番号は,現地の通信事業者の交換機が対応していなければ経路制御ができない。例えばドイツの事務所では当初,050発信ができなかった。NTTコムが通信事業者によっては050発信ができない可能性をあらかじめ伝えていたため混乱はなかったが,現地の努力で解決する必要があった。先のドイツの例では「現地の通信事業者に050番号への対応を依頼したところ,かけられるようになった」(財津グループマネージャー)。

 もっともダイレクト着信の狙いとは裏腹に,導入当初は構内PHS端末を自分の座席に置いていくユーザーも多かった。社内連絡用のコードレス電話機として使うだけで,いつどこでも連絡が取れる携帯電話機としてとらえる意識が薄かったからだ。ほどなくして,「アドレス帳で検索してすぐに発信できる」,「カメラ付き携帯電話機を持ち込めない機密エリアでも連絡が取れる」といった構内PHS端末の便利さがユーザーの間で実感され始め,利用が進んだ。

松下製機器をNTTコムが管理

 三つ目の狙いであるIP電話関連事業推進のターゲットとなったのは,関連会社であるパナソニック コミュニケーションズの構内PHSシステム。単に同社のPHSシステムを大量導入しただけではなく,IPセントレックス・サービスと構内PHSシステムを組み合わせるノウハウも得た。

 その成果は「PHSサーバー」に結実している。PHSサーバーとは,IPセントレックスと構内PHSシステムを連携させるためのゲートウエイ装置。「IPセントレックス・サービスと構内PHSシステムを密に連携させる試みはこれまでなかった」(IPセントレックス・サービスを提供するNTTコム VoIPサービス部の天野祥行担当部長)ことから,新たに開発する必要があった。開発は,パナソニック コミュニケーションズとNTTコムが共同で行った。

 完成したPHSサーバーは,NTTコムが自社のIP-VPN*網内に置いている。松下の資産ではなく,NTTコムが松下から購入してIPセントレックス・サービスの一つの設備として運用するという形態だ。

 このPHSサーバーには,構内PHSシステムとIPセントレックスのSIP*サーバーの連携によるグループ着信やコール・ピックアップなどの機能が搭載されている。現在は「Centrex Gateway AD-7320」として,パナソニック コミュニケーションズの構内PHSシステムのラインアップに名を連ねる。

2000年の改革が地ならし

 三つの狙いを充足するIP電話システムが生まれた背景には,全社で取り組むIT改革の一環として2000年2月から続けていた「電話の在り方」の検討会での議論がある。また担当者の意識共有と同時に,社員との問題意識の共有もなおざりにはしなかった。

 2000年ごろの松下は「情報部門と総務部門の連携がない状態」。総務グループi-EPOCHチームの香川義弘チームリーダーは,当時をこう振り返る。互いの資産状況を把握することさえ苦労するありさまだったという。


図3 構築のタイム・スケジュール
IP電話導入の全社プロジェクトが立ち上がった2004年2月以前にも,4年にわたる議論の積み重ねが存在した。

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 そこで2000年2月,情報部門と総務部門がタッグを組み「i-EPOCH全社推進プロジェクト」を立ち上げた(図3[拡大表示])。これは,社内でバラバラだった業務インフラを標準化するのが目的。その一環としてIP電話の検討も始めた。IPセントレックス・サービスを使うのか,企業内IPセントレックスにするのか,端末は何にするのか,などだ。

 その結果,「技術の陳腐化を避けるには資産を持たないのがベスト」という結論に達し,それを基にIP電話システムの仕様を固めていった。IP電話導入の具体的な動きがスタートしたのは,2004年2月の「全社IP電話化推進委員会」の設置から。それから半年もたたないうちに,松下製PHSとIPセントレックスを組み合わせる技術要件を確定。導入にこぎつけた。

 一方,社員との意識共有は,音質の検証と教育がそのフィールドとなった。導入過程で各拠点の総務責任者を集め,デモ環境による試聴会を開催。良い・悪い,といった主観による評価を参考に調整を重ねた。稼働後も「違和感を訴えるエンドユーザーが何人かいた」(財津グループマネージャー)が,電話回線の種類によって違う音量レベルのチューニング作業を続けたことにより,現在のところ不満は収まっているという。

 社員の教育も,まず総務責任者に対して構内PHS端末の操作方法を伝達。そのほかの社員にはDVDやCDの操作説明ビデオによる個別教育とした。「数千人規模の説明会を開催するのは無理がある」(財津グループマネージャー)と判断したからだ。また構内PHS端末の操作が分からない場面を極力少なくするために,操作方法をまとめた名刺大の簡易マニュアルも配布した。

音声会議を呼び水にサービス拡充へ

 今後は,2007年3月末までに2万台を追加すると同時に,導入から「活用」の段階へと駒を進める。


写真2 構内PHS端末にスピーカーフォンを接続して音声会議を実施
全社員が手軽に使えるようにして利用拡大を狙う。

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 既に構想を固めつつあるのは,テレビ電話システムの導入。その布石として,音声による遠隔会議の利用を始めた(写真2[拡大表示])。一部社員が活用するだけにとどまっていた遠隔会議を,構内PHS端末をつなぐだけで手軽に使えるようにすることで,コミュニケーション機会を拡大。テレビ会議活用への土壌を整える。より安価に実現できるWeb会議端末として,ソフトフォン*も評価中だ。「業務アプリケーションとの融合を視野に入れている」(情報企画グループの阿曽伸一参事)と言う。

 IPセントレックス端末の顔ぶれに,FOMA/無線LANデュアル端末*が加わる可能性もゼロではない。財津グループマネージャーは,FOMA/無線LANデュアル端末の開発について「各事業部と連携を取っている」とだけ打ち明ける。「2年後には別のシステムになっているかもしれない」と笑いながら話すその眼の奥には,次なる戦略の青写真が映っていたのかもしれない。