![]() トヨタ流の指導を受けている星崎工場。トレーナー(青い服の2人)の究極の役割は、20代中心の若い改善チームに、楽しく明るく改善に取り組むマインドを伝えること [画像のクリックで拡大表示] |
![]() 星崎工場の改善プロジェクト「N-BPS活動」の垂れ幕 [画像のクリックで拡大表示] |
製造業では、若手社員をOJT(職業内訓練)で指導すべき30~40代の先輩社員が工場で枯渇しているという声が多い。不景気だった1990年代に採用を手控えたり、製造の外注化などで人を減らしたりしためと見られている。
こうした悩みをブラザー工業で精密部品製造を手掛ける星崎工場(名古屋市)も抱えていた。
同工場の以前の悩みは、若手の改善意欲になかなか火がつかなかったことだった。どちらかといえば研究開発を重んじる風土があり、生産現場の基本である整理・整とんなどを徹底する気風ではなかったという。
その背景には、やはり改善活動を指導できる30~40代の中堅層の人材が薄い事情もあった。以前は、本社から改善のプロが数日間工場に出向いて改善手法を教えるなどしたが、若手の心に火をつけるには至らなかった。
だが、今のうちに若手社員に改善活動の大切さを伝えておかないと、団塊の世代があと5年でいなくなり、ますますOJT(職業内訓練)が難しくなるばかり――。悩んだ末に同工場は、2005年4月に仕切り直して新たな改善プロジェクト「N-BPS」を発足させた。
コンサルティング会社と契約し、社外のトヨタ自動車出身のトレーナー2人に週に1~2回のペースで来てもらうことにした。20代の若手社員中心に10数人ずつの3~4チーム編成で半年ずつ、編成を変えながら改善指導を受ける。
「A君ちょっと来なよ、ほらこうじゃないか」と気さくにトヨタ流改善のベテランから声をかけてもらい、改善を楽しげにやっている姿そのものに感化されてもらいたいという狙いだ。
改善活動を2005年4月から半年ずつ既に3回回した。その結果、「あるラインの生産効率を20%アップさせる」「製造リードタイムを30%削減する」といった目標を次々にクリアしている。
トヨタ流のトレーナーが明るく楽しく指導
それ以上に、効果を感じたのは、若手の意識面の変化だという。プリンティング・アンド・ソリューションズ・カンパニーの今井達二CE推進グループ・マネジャー(GM)は、現場で夜勤から昼勤への引き継ぎメールに改善意欲が伝わるこんな文面を見たときに感激した。
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今井GMは、プリンタ事業部門をエクゼクティブ バイスプレジデントとして管掌する石川博執行役員にもメールを転送したところ、石川氏も大変感激してこんなメッセージを現場に返したという。
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![]() 星崎工場製造部製品第2グループの南昌幸グループ課長(左)と、製造部CE推進グループ・マネジャーの今井達二氏(右) [画像のクリックで拡大表示] |
今井GMは、「ほかにも結構これに似た内容のメールが担当者同士でやり取りされていることを知って、これが一番のプロジェクトの成果だと泣けるくらい感激している」と言う。
同社星崎工場にとって、改善活動を定着させるOJT強化の最大のキーポイントは、「楽しげに改善のための問題発見をやって見せたり、言って聞かせる明るいおじさん」の存在だった。
トヨタ流のトレーナーを招く企業が増えている背景には、こうした「前向きに改善する楽しさを伝えられる啓蒙役」が現場で枯渇しているという事情があるのかもしれない。