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三菱自動車は主要4拠点にWAN高速化装置を導入した。きっかけは,運用コスト削減とセキュリティ向上を目的とするファイル・サーバーの集約。 1.5テラバイトのファイルを移行する作業と,サーバー集約後のファイル・アクセスのレスポンスを確保する用途に,WAN高速化装置が威力を発揮した。

 三菱自動車は2006年9月,主要拠点の各部門に散在していた50台あまりのファイル・サーバーを,愛知県の拠点に集約した。さらに集約時に大容量のサーバーに移し替えて統合。この集約と統合により,月額100万円以上の運用コストを削減した。

 特筆すべきは,集約を終えるまでの間,サーバーを停止させるなどでエンドユーザーである社員の業務を停滞させなかったこと。夜間や休日にWANを介して少しずつデータをコピーしていった。WAN経由で移行した容量は,合計で1.5テラバイトに上る。

 通常,これだけの容量のデータをWAN経由で移すとネットワークに大きな負荷がかかる。その負荷軽減に大きく貢献したのが,各拠点に配備したWAN高速化装置だった。

運用費削減と情報漏えい対策を狙う

 三菱自動車にとっては,以前から拠点や部署に散在するファイル・サーバーの運用コストが悩みの種だった。サーバーの運用管理を外部委託しており,「委託費用がサーバー1台ごとに発生する契約のため,膨大なコストがかかっていた」(管理本部IT企画統括部の西川康弘エキスパート,写真1左)。拠点内では少しずつサーバー統合を進めていたが,もはや抜本的な対策が避けられない状況となっていた。

 情報セキュリティ対策の面からも問題だった。ファイル・サーバーが散在しているため,「システム部門でどのようなファイルがあるのかさえ把握できない」(管理本部IT企画統括部の冨田純一氏,写真1中央)からだ。

写真1●三菱自動車管理本部IT企画統括部の西川康弘エキスパート(写真左),冨田純一氏(同中央),MCORの岡田英夫・技術本部第3技術部チーフ(同右)
写真1●三菱自動車管理本部IT企画統括部の西川康弘エキスパート(写真左),冨田純一氏(同中央),MCORの岡田英夫・技術本部第3技術部チーフ(同右)

 これらの課題の打開策として,ファイル・サーバーを1カ所に集約し,大容量のサーバー1台に統合する構想が2005年夏ころに浮上した(図1)。

図1●WAN高速化装置を活用しながら4拠点のファイル・サーバーを集約・統合した三菱自動車
図1●WAN高速化装置を活用しながら4拠点のファイル・サーバーを集約・統合した三菱自動車
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WAN経由ではレスポンス悪化の懸念

 だが,この構想の実現には新たに二つの課題が生じることが分かった。

 一つは,集約したファイル・サーバーに各地の拠点からアクセスするとレスポンスが著しく低下すること。Windowsのオフィス・ソフトなどで使われるファイル共用プロトコルのCIFSが原因だ。

 というのも,CIFSはファイルを小さなデータに分割して転送する。しかも分割したデータごとに,サーバーとクライアントの間で確認応答の処理が発生。伝送遅延が大きいWAN環境ではこの確認応答に時間がかかり,スループットが低下する。その結果,ファイルの読み書きが遅くなるため,社員の生産性を下げてしまう。

 もう一つの課題は,具体的なファイルの集約方法だ。各部門が日常的にファイル・サーバーを利用している以上,移行するからといって簡単にサーバーを止められない。このため物理的なサーバーの移設やテープ・ドライブによるバックアップなど,サーバーを停止せざるを得ない手法は取りにくい。

 サーバーを停止させたくなければ,WAN越しにデータを少しずつコピーする手法が考えられる。ただしこの手法では,WANを介した通信のスループットが低下する問題にぶつかる。

半信半疑ながら実験を経て決断

 頭を悩ませていたところに,自動車向けITシステムの開発・運用会社であるMCORの岡田英夫・技術本部第3技術部チーフ(写真1右)から,「WAN高速化装置を使ってはどうか」との提案があった。WAN高速化装置はデータ圧縮やキャッシュなどの機能でWANに流れるトラフィックを減らす。確認応答の処理も減らすため,相応にファイルの読み書きが高速になる。WANを介したデータのコピー作業の効率化も期待できた。

 もっとも,「当初は装置の効果をあまり信じていなかった」(西川エキスパート)。そこで,検証用のデモ環境を構築し,インテグレーターからWAN高速化装置を借りて実験した。

 結果は西川エキスパートの予想に反して,WANに流れるトラフィックを約90%削減できるというものだった。十分な効果があったことから,WAN高速化装置を活用してファイル・サーバーを集約するインテグレーションの提案を7~8社に依頼。最終的にネットマークスを選んだ。「1社でストレージとネットワークの両方を手がけている点を評価した。コスト面でも優位だった」(西川エキスパート)。WAN高速化装置は,米リバーベッドテクノロジーの「Steelhead」を採用した。

CIFSの通信だけを高速化対象に

 WAN高速化装置の展開は2006年5~7月にかけて実施した。導入する各拠点はWANのアクセス回線を2本契約し,動的ルーティングのEIGRPを使って各回線にトラフィックを均等に負荷分散するよう設計している。このため,WAN高速化装置も各拠点に2台ずつ設置した(図2)。

図2●ファイル・サーバー集約を実現した三菱自動車の主要拠点のネットワーク
図2●ファイル・サーバー集約を実現した三菱自動車の主要拠点のネットワーク
各拠点のファイル・サーバーを愛知県の拠点に集約してWAN経由でアクセスする形態に切り替えた。遅延によってスループットが低下するのを防ぐため,各拠点にWAN高速化装置を導入している。WANに流れるCIFSトラフィックを90%削減する効果を上げている。

 WAN高速化装置をLANに接続する形態はいくつかある。すべてのアプリケーションのトラフィックを高速化したければ,WANに接続するルーターとLAN側のレイヤー3スイッチの間に接続する形態が一般的だ。

 三菱自動車はWANルーターの配下のレイヤー3スイッチの1ポートに接続した。これは,高速化の対象をCIFSに特化したかったため。レイヤー3スイッチのPBR機能を稼働し,CIFSトラフィックだけをWAN高速化装置に転送するようにポリシーを定めた。ほかのトラフィックはWAN高速化装置を経由しない通常の通信となる。

2重化した回線への対応に苦心

 装置の導入に伴うネットワークの設定では,冗長構成の対応に苦心した。

 WAN高速化装置は対向する装置同士が専用のプロトコルを使って高速化を図るため,往復で同じ装置が通信する必要がある。だが,前述の通り三菱自動車の各拠点はWANと接続する回線を2重化し,さらにトラフィックを負荷分散している。そのままの状態では,復路のパケットが元の相手と異なるWAN高速化装置に届いてしまう恐れがある。これを防ぐため,ペアとなるWAN高速化装置を決め,伝送経路を固定的に設定する必要があった。

 通常時はまだしも,障害発生時まで考慮した経路設定は非常に複雑になった(図3)。「この装置が壊れたときは,この経路を通してこの装置とペアにするといった設定をすべて正しくできるまでが大変だった」(ネットマークス中部支社中部技術部の中島幹太氏)。

図3●障害時までを想定しながらWAN高速化装置の通信経路を固定的に設定
図3●障害時までを想定しながらWAN高速化装置の通信経路を固定的に設定
通信の最適化処理を正しく実行するには,往復で必ず同じWAN高速化装置同士で通信する必要がある。経路を2重化していても正しい組み合わせで通信するよう,各WAN高速化装置と装置を接続するレイヤー3スイッチに,固定的に経路設定を施した。
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 こうした苦労が実り,現状は支障なく稼働している。実際,WAN高速化装置の1台に不具合が発生して装置を止めた際には,問題なくう回路に切り替わって通信を確保できたという。

集約後もクレームはほとんどなし

 経路設定に苦労しながらもWAN高速化装置の展開は着実に進んだ。設置を終えた2006年7月からは,WAN越しのデータの移行作業に入った。

 作業は部門などの小さな単位で段階的に進めた。夜間と休日に1時間当たり約2Gバイトを転送。この作業にWAN高速化装置のデータ圧縮やキャッシュなどの機能が威力を発揮した。重複するデータの伝送を減らすことで,「WANにかかる負荷が減り,安全にデータを移行できた」(西川エキスパート)。移行作業は9月に完了した。

 ファイル・アクセスの速度も問題なく確保できている。「ファイル・サーバーを移した後も,社員からはほとんど反応がなかった。サーバーがローカルにあるのとほぼ同じ使用感だからと考えられる」(冨田氏)。さらに,以前から拠点をまたいで稼働させていた一部のアプリケーションは,処理速度が向上。従来はファイルを開くのに数分要していたが,数秒に短縮した。

 ただし,例外的に相性が悪いファイルもあった。データベース・ソフト「Access」の,特に数百Mバイトに上る巨大なサイズのファイルだ。ローカルにサーバーがあったときは数秒で開けていたのが,数分以上かかるようになってしまった。デモ環境では再現できず,原因を究明できなかった。やむを得ず,当該ファイルを利用する部門は,ローカルにもファイル・サーバーを設置する体制にして割り切った。

東京拠点のサーバーも集約・統合へ

 この例外を除けば,導入の満足度は高い。2007年からはWAN高速化装置の活用範囲をさらに広げ,東京地区のファイル・サーバーも愛知県の拠点に集約・統合することにした。3月末に統合を終える予定である。データ容量換算で,国内のファイル・サーバーの99%が1カ所に集まることになる。

 今後は海外子会社との通信や,自動車などの設計に利用するCADデータの通信にも,WAN高速化装置を活用したいとしている。