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医薬品卸大手のスズケンは今年4月をめどに、災害やシステム障害が発生しても事業を継続できる体制を整える。基幹系から物流システムを切り出して二重化。それを前提にBCP(事業継続計画)を策定する。取引先との連携が必須なため説明し、協力を要請する。

 「医薬品の在庫を抱えているのは、我々卸業者。そこが機能しなければ、非常時に医薬品が流通しなくなり、多大な迷惑をかけてしまう」――。スズケン 営業本部の宮田浩美物流部長は、今年4月に向けて事業継続体制を実現する必要性をこう語る。

 もちろん同社は、これまでも災害対策を施してきた。阪神淡路大震災の教訓を基に、本社は震度7の揺れにも耐えられる建物とし、社内のコンピュータ室には床が動いて揺れを吸収する免震床を導入。燃料がフルの状態で32時間連続で電力を供給できる自家発電機を装備している。

 ただ、本社がある愛知県名古屋市は、東海・東南海地震が発生すれば被害を大きく受けると想定される地域である。本社にシステムが集中しているため、「本社が甚大な被害を受けると、東京や大阪、九州など他の地域での受発注や納入業務まで停止してしまう」(システム開発部情報サービス課の武川浩久統轄課長)。こうしたリスクを回避するため同社は、BCPを策定することにした。

 ポイントは三つある。一つは、自然災害や大規模システム障害などの非常時に継続すべき事業を受注と物流に絞ったこと。病院や薬局といった取引先から注文を受け付け、該当する医薬品の在庫を倉庫で引き当てて発送する業務である。二つ目は、基幹系のうち物流システムだけ北海道でバックアップ・システムを立ち上げたこと。そして最後は、BCPの実効性を上げるため、取引先まで巻き込んだことだ。

2時間以内に物流業務を再開

 物流システムは、「入荷」、「庫内管理」、「出荷」といった業務を担っている。2006年11月、名古屋の本社で稼働するのと全く同じ構成を北海道の札幌支店に用意し、二重化した(図1)。

図1●スズケンは基幹システムから物流機能を切り出し、災害対策用に二重化した
図1●スズケンは基幹システムから物流機能を切り出し、災害対策用に二重化した
本社のシステムが被害を受けても、全国の拠点から医薬品の納入業務を継続可能
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 本社が被災した際には札幌のシステムを起動して、2時間以内に物流の業務を再開する。全国にいる社員のパソコンのデスクトップに専用のショートカットを置いてあり、非常時にアイコンをクリックすると札幌のシステムに接続する仕組みだ。これにより営業員などは、医薬品の発注と発送を普段通りに指示できる。

 その日の在庫引き当てや出荷結果は夜間バッチで取りまとめ、札幌のバックアップ・システムにデータを転送する。そのため、システムを切り換えると朝一番の状態になる。この点は、「基本的には棚卸しをしてシステム上の品目と数量を修正するが、場合によっては倉庫の在庫が引き当てられれば出荷することもある」(武川統轄課長)。

 基幹系システムから物流システムだけを切り出し、札幌に二重化できたのは、すでにメインフレームから分離していたからだ。

 2003年12月、メインフレームで稼働する基幹系から物流業務部分のみを「WMS(Warehouse Management System)」と名付けてUNIXサーバーに移行するプロジェクトを開始した。当時はBCPを前提にしたものではなく、物流機能の追加や変更を容易にすることが目的だった。その後、04年10月に新潟県中越地震が発生し、部品メーカーが被災に遭って他エリアにある完成品メーカーの事業へ影響したことを目の当たりにする。ちょうどスズケンでも04年春にリスク管理室の体制を強化したこともあり、WMSを災害対策用に二重化することを経営陣が認めた。WMS は05年4月に稼働し始め、昨年11月に全エリアのシステムをメインフレームから移行し終えた。

 なお、札幌にバックアップのシステムを設置したのは同エリアが地震のリスクが少ないのに加えて、システムの運用面で有利だったからだ。札幌支店内に約 15人の開発スタッフが常駐しており、「切り替え作業やデータの整合性の確認といった、バックアップ・システムの起動作業をスムーズにこなせる」(武川統轄課長)。

取引先にBCPへの協力を要請

 策定したBCPをきちんと動かすためには、情報システムが稼働しているだけでは不十分だ。「用意した情報システムを非常時にどのように使うのか、社内だけでなく取引先を含めたプロセスとして決めておく必要がある」(宮田物流部長)。

 そこで昨年春、物流業務とシステム運用の社内マニュアルを作成した。マニュアルには災害対策のほか、その場で判断が必要な事項を記してある。例えば、「管理職は派遣社員を自分の判断で雇ってもよい」、「月をまたいだ場合の経理手順」についてだ。このほか、迷惑をかけた取引先への詫び状のひな型、災害時の時間外労働の記入簿まで添付している。マニュアルやひな型などのファイルはオンラインでも参照できる。

 このマニュアルに基づき、社員にeラーニングを講習させ、非常時における仕事の進め方を徹底している。

 取引先との連携は、スズケンが今回のBCP策定で最も力を入れた点だ。BCPでは、非常時にスズケンと取引先を結ぶEDI(電子データ交換)が使えないことを前提としている。スズケンと病院や薬局を結ぶEDIや、薬品卸と製薬会社との間を結ぶ業界VAN「医薬品業界データ交換(JD-NET)」が使えないというわけだ。現在、病院や薬局の約5割がEDIを使って発注してきている。EDIが使えないとなると、携帯電話や電子メールといった別の手段を使わざるを得ない。この点について取引先と合意を取っておかなければ、BCPは絵に描いた餅になってしまう。

 今年の4月からは順次取引先に出向いて、非常時にスズケンがどのような体制で業務を続けるのか説明する予定だ(図2)。協力を求めるとともに、非常時の担当者、その人が被災した場合の担当者、それら担当者との連絡方法を確認する。これに先立ち、BCPが有効かどうか、4月に全社で訓練を実施し、問題点を洗い出しておく。

図2●スズケンはシステムの二重化と並行し、事業継続計画(BCP)の策定を始めた
図2●スズケンはシステムの二重化と並行し、事業継続計画(BCP)の策定を始めた
2007年4月に全社訓練を実施した後、取引先に非常時の業務手順を説明する
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 費用面で見ると、スズケンがBCPに投じたのは約3億円。同社の年間の売上高は2005年度の連結で1兆3886億円で、1日当たりでは40億円弱となる。1日でも早く業務を再開できれば、BCP費用は回収できる。